聖ヤコブ大聖堂とシベニク旧市街

アドリア海に面する小さな町
石だけで造られた聖ヤコブ大聖堂は世界遺産
美しい大聖堂と旧市街を紹介
2019年10月訪問

写真は港から見た聖ヤコブ大聖堂のドーム


シベニクはアドリア海に面するダルマチア地方のほぼ真ん中に位置する小さな町。古代ギリシャの時代からの歴史ある町ですが、町が大きく発展したのは1412年にベネツィアの支配下に入ってからのことでした。シベニクはクルカ川の河口に位置することから交易港として飛躍的に発展し、世界遺産に指定された聖ヤコブ大聖堂を初めとする多くの教会が建てられています。

聖ヤコブ大聖堂



聖ヤコブ大聖堂はシベニクがベネツィアの支配下に入った1412年から間もない1432年に建築が始まりました。しかし、オスマントルコの脅威や伝染病で度々中断し、完成したのは1555年。
当初はゴシック様式で建築が始まりましたが、完成までに100年以上かかったため途中からルネッサンス様式も加わっています。イタリアの影響が極めて強い建築物で、ベネツィア支配下で繁栄したシベニクの人々のベネツィアへの憧れが形になったものといえるかもしれません。


大聖堂の建設は最初、ミラノ出身の建築家ボニーノによってゴシック様式で始まりました。
1441年から地元の建築家ユライ・ダルマティナッツが指揮をとることになります。彼はベネツィアの影響を強く受けた建築家でルネッサンス様式が取り入れられました。
ユライ・ダルマティナッツは完成を見ることなく1473年に亡くなり、1475年からはイタリアのニコラ・フィレンティナッツ(フィレンツェのニコラ)が引き継ぎました。

左の写真は大聖堂ファサード(正面)。左右対称で中央にゴシック様式の入口が設けられていますが、屋根の部分はルネッサンス様式の半円形となっています。

この大聖堂が世界遺産とされたのは、何より木や煉瓦などを一切使わず、石材のみで建てられているということにあります。現地ガイドさんによると大きな石を彫り、石と石をパズルのように組み立てて造られたとのことで、非常に高度な技術を要したそうです。

20世紀末の内戦でドームが破壊され、修復後世界遺産に指定されましたが、修復には大変な困難・苦労があったとのことでした。


大聖堂は海に近い場所に西向きに建っていて、海際の道から目指す場合は、階段を上ると正面に出ます。

旧市街を散策しながら大聖堂を目指すと、細い路地の間から大聖堂の後ろが見えて来ます。
そして、大聖堂の北側は町の中心レプブリカ広場に面していて、大聖堂に向かい合う形で旧市庁舎が建っています。

そのような配置だからでしょうか、広場に面した大聖堂北側の入口には聖人、アダムとイブ、そして1対のライオンの像が彫られていて「ライオンのドア」と呼ばれる凝った造りとなっています。

ライオンのドアは15世紀のミラノの建築家ボニーノの作。ボニーノは建築当初の責任者。
実はシベニクに近いトロギールにある聖ロブロ大聖堂の入口にもアダムとイブ、そして1対のライオンが彫られていて、非常に似ているのですが、何か関係があるのでしょうか。
トロギールの聖ロブロ大聖堂の門は13世紀に巨匠ランヴァンによって造られたものでクロアチアを代表するロマネスク美術の傑作とされています。ゴシック様式のライオンのドアと見比べてみると似ているだけに様式の変化が興味深い。

アダム
なぜか胸を隠しています
 
 イブ
なぜか胸を隠していません

ライオン
ロマネスク様式の聖ロブロ大聖堂と比べると随分と写実的
   


ライオンのドア上部



ライオンのドア上部にはたくさんの「頭」があります。


よく見ると他にもたくさんの「頭」。顔が全部違います。老若男女全部で71。
彼らは大聖堂が建てられた当時の町の有力者達ではないかと言われています。
   

これらの顔はユライ・ダルマティナッツの作。
クロアチアにあるルネッサンス様式のポートレートの傑作とされています。
町の中心広場に面して飾られていることからすると、有力者の顕彰という意味もあったのかも・・・。


 大聖堂裏手
8角形のドームはニコラ・フィレンティナッツ作
 大天使ミカエル
ニコラ・フィレンティナッツ作


正面入口
キリストと12使徒のレリーフ



大聖堂内部

大聖堂内部に入ると身廊が両側に側廊を持つ構造。
側廊の天井はゴシック様式の交差ヴォールド


側廊部分が補修工事中で見学できませんでしたが、側廊部分は2階があるように見えます。

内陣


内陣までの身廊にはゴシック様式のアーチが続きますが、
内陣手前で見上げると8角形のドーム。そして、後ろを振り返ると美しいバラ窓。
ゴシック様式とルネッサンス様式が見事に融合しています。

 ルネッサンス様式のドーム
 バラ窓のステンドグラスが美しい


なんとも荘厳な印象。石造りならではのものでしょうか。


手すりもベンチも全て石で出来ています。


内陣に置かれた主祭壇は大聖堂完成後の1640年にバロック様式で造られたもの。

優美な主祭壇
 
 祭壇画は「涙の聖母」


大聖堂の南東部、主祭壇に向かって右手の階段を下りると、
聖ヤコブ大聖堂の最大の見どころがあります。

洗礼室

 

洗礼室は1440年代にユライ・ダルマティナッツによって造られたもので、クロアチア最初のルネッサンス様式の作品です。洗礼盤は赤っぽい石で造られ、3人の天使が支えています。
洗礼室上部はレースのような美しいレリーフと聖ヤコブの象徴であるホタテ貝の模様。天蓋を支える場所にはダビデ王と預言者の像。建築家が優れた彫刻家でもあったことが良く分かります。




そして、天井には中央に鳩と父なる神。その周囲に彫られた天使のコーラスが子供たちの洗礼を祝福しています。このように美しい場所で洗礼を受けられる子供たちはなんと幸福なことか・・。




美しい天使たち
   

彫りはかなり深く、見る場所によって表情が変わります。
   


窓から差し込む光が美しさを増しています
 
 中央の父なる神と鳩

言葉にならないほど美しい。文句なしの傑作です。


シベニク旧市街

大聖堂の北側に面するレプブリカ広場


美しい建物は旧市庁舎。ルネッサンス様式の建物で連なるアーチが美しい。
でも実は、中世には中央の柱に罪人が縛られ晒されたのだそうです。
時間がなくて行けなかったけど、この広場から町を一望できる聖ミカエル要塞に行けるそうです。


 聖イヴァン教会
15世紀ゴシック・ルネッサンス様式
 世界各地の都市との距離を示す看板
下の方に東京もありました


旧市街は石畳の道に石造りの建物。
現地ガイドさんが建物の下の方を見て、と声をかけました。何だと思います?2つあります。
   

猫用の水飲み場(左)と犬用の水飲み場(右)だそうです。
犬と猫で分かれているそうですが、犬と猫が分かってくれると良いですね。

旧市街の細い道は魅力的

路地のカフェ
 
 お金持ちの家の入口


 シベニク特有の街灯 お洒落
 シベニクの男性の帽子

シベニクの男性特有のオレンジ色の帽子。一度落とすと二度と被らないのだそうです。
奥さんが亡くなると裏返して黒くするんだけど、町からでると元に戻してナンパするんですって。


シベニクの旧市街はバスターミナルから聖ヤコブ大聖堂まで坂を上っていく形で広がっています。

バスターミナル近くの聖フランシスコ教会



小さな町ですが聖ヤコブ教会は素晴らしかった。
何より洗礼室の美しさに感動
要塞に行けなかったのは残念だけど、
大聖堂の洗礼室だけのために訪れても良いと思います。


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参考文献

聖ヤコブ大聖堂パンフレット日本語版
21世紀世界遺産の旅 小学館
るるぶ クロアチア・スロヴェニア

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。