アブ・シンベル

エジプトとスーダンの国境近くに位置するアブ・シンベル
アスワンハイダムの建設によって誕生したナセル湖に面して2つの神殿があります。
ユネスコが神殿を移転するという一大事業を行った場所でもあります。
2004年12月訪問

写真はアブ・シンベル大神殿


アブシンベル大神殿・小神殿は元々ナイル河に面した岩山を彫って造られた岩窟神殿です。しかし、アスワンハイダムの建設により水没する運命にありました。神殿を救うため、ユネスコは近くに巨大なドームを造り、神殿をそっくりそのまま60m上に移動するという大事業は行います。神殿の移転は世界中の協力で成し遂げられ、この事業がきっかけで世界遺産を保護しようという動きが生まれました。

19世紀まで砂に埋もれていた神殿は非常に保存状態が良く、神殿ごと移動されたと言われても、なかなか信じることができないほどです。


アブ・シンベル大神殿




アブ・シンベル大神殿はラメセス2世がヌビア人に対してエジプトの力を示すために造られた記念碑的神殿と考えられています。

古代エジプトではアスワンより南のナイル河流域はヌビアと呼ばれていました。

ヌビアは金などの鉱物資源に恵まれているだけでなく、アフリカ奥地からの象牙等の交易の中継地点としても重要だったため、歴代エジプト王はヌビアへの遠征を繰り返し、紀元前1470年ころにはトトメス3世によりエジプトの支配下に入っていました。

その約200年後のファラオであるラメセス2世は古代エジプトで最も自己顕示欲が強いと言われたファラオです。
ラメセス2世はエジプト中に建造物を建てまくったことで有名ですが、ヌビアにも多くの神殿を造り、その中でもアブ・シンベル大神殿は群を抜いた巨大さを誇っています。

アブ・シンベル大神殿は太陽神ラー・ホルアクティに捧げた神殿で、正面入り口の上部には日輪を頭にした太陽神ラー・ホルアクティと、その左右に正義の女神像を捧げるラメセス2世が彫られています。

ラメセスという名は「太陽神ラーの創りし者」という意味。

しかし、何と言っても、この神殿で特徴的なのは正面にラメセス2世の座像が4体も並んでいることでしょう。自分の像を4体並べるという発想は自己顕示欲の強いラメセス2世ならではです。

ラメセス2世の巨像は高さ20m。足元には愛妃ネフェルタリ(右下)や子供達の像も刻まれています。ラメセス2世は多くの妻との間に92人の王子と102人の王女をもうけたと言われていますが、多くの妻の中でもネフェルタリへの寵愛ぶりは群を抜いていました。そもそも、ネフェルティという名前は「美人の中の美人」とか「最高の美女」という意味だというから凄いです。

   

ネフェルタリ王妃の像は正面入り口の左右に刻まれています。他の女性像は王女です。ちなみに、エジプト三大美人は、このネフェルタリとアマルナ時代の王アクエンアテンの妃ネフェルティティ、そして、クフ王の弟の妻のネフェルト。絶世の美女と言われるクレオパトラはエジプト五大美人には入っているけど、この3人には負けているのだそうです。


正面入り口の左手には蓮の花で首を縛られたヌビア人の捕虜が刻まれています(左下)。
正面入り口の右手にはパピルスで縛られたアジア諸国の捕虜達(右下。
   


上下エジプトの統合を示すレリーフ
ナイル河を神格化したハピ神が蓮の花とパピルスを中央で結んでいます。
蓮の花は上エジプトの象徴でパピルスは下エジプトの象徴です。



神殿内部は残念ながらカメラ撮影禁止。入口から内部を覗きこんで撮影してみました。

入ってすぐの大列柱室には、またもラメセス2世が8人オシリス神の格好で立っています
この立像も高さ10m。人が小さく見えます。

内部は撮影禁止なのが悔しいほど、保存状態がよくて、壁画がしっかりと残っています。
有名なのが、ヒッタイトとの戦闘を描いたもの。

壁画の中のラメセス2世は大活躍です。

ラメセス2世が「大勝利」と宣伝を続けていたため、近年エジプトがヒッタイトに送った平和条約が発見されるまで、世界中の学者もラメセス2世の大勝利と騙され続けていました。

実際は、ラメセス2世はカデシュの戦いでは危なかったようで、平和条約を結ぶことで助かったというのが本当のところのようです。

もっともラメセス2世とヒッタイトが結んだ平和条約は世界最古の条約ということですから、やはり凄いファラオと言えるのかもしれません。

この神殿、一番奥の至聖所まで、多くの部屋が続いていて、内部は想像を越える広さ。
しかも、どの部屋も壁画・レリーフがとっても綺麗で見飽きることがありません。



一番奥の至聖所にはラメセス2世を含めた4体の坐像があります。右からラー・ホルアクティ、ラメセス2世、アメン神、プタハ神です。年に2回、2月と10月に、神殿に差し込む朝日が神像を数分間照らし出すのだそうです。しかも、闇の神であるプタハ神だけには陽がささないのだとか。計画的に造られているとのことで、それもまた、凄いですね。



アブ・シンベル小神殿

大神殿の少し奥に小神殿があります。


小神殿はハトホル女神に捧げられた神殿で、ラメセス2世がネフェルタリ王妃のために造った神殿です。正面に並ぶのは4体のラメセス2世と2体のネフェルタリ王妃。古代エジプトでは王妃の姿は王の足元に小さく刻まれるのが普通だったのに、ラメセス2世と同じ大きさで刻まれたというのは、異例のことです。よほどラメセス2世に愛されていたのでしょう。そういえば王妃を挟んで立つ王の姿は王妃を守っているようにも見えますね。本によっては、この神殿は結婚25周年を記念して王妃に贈ったものとも書かれています。ネフェルタリ王妃の墓は王家の墓の中でも一番綺麗だといいますし、ここまで王に愛されてしまうと、他の王妃達がちょっとかわいそうになってきます。



こちらの神殿も内部は写真撮影禁止。
入口から撮ったのが右の写真です。

ハトホル女神は愛と喜びの女神と言われ、人々に幸福をもたらすと言われていました。また、音楽とダンスの神でもあります。

ハトホル女神のレリーフは牛の耳を持つ女性の顔を正面から描くものが多く、この神殿内部にもハトホル女神の顔が刻まれた柱が並んでいます。

しかし、この神殿の見どころはなんと言っても、ネフェルタリ王妃の美しい姿でしょう。

この神殿内部に描かれているネフェルタリ王妃は、本当に「美し〜〜!」と絶叫もの。
こっそり撮ろうという誘惑と戦うのは大変です。

ハトホル女神に捧げ物をする姿や、楽器を演奏する姿など、とっても綺麗。

彫刻より壁画の方が美しさが際立っている気がします。美人で、なおかつ、スタイルがいい。

まさに「美人の中の美人」です。



神殿の前はアスワンハイダムによってできた人造湖ナセル湖。
夕暮れは幻想的です。




夜の神殿はライトアップされ、音と光のショーも行われます。
日本人が多い時は日本語で催されます。
ラメセス2世の像を前に日本語を聞くのは不思議な気分でもありました。



ラメセス2世の建造物は数多いですが、アブ・シンベル神殿の迫力は別格もの。
それにしてもネフェルタリのこと大好きだったんですね。


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参考文献

世界遺産を旅する12(近畿日本ツーリスト)
図説古代エジプト2(河出書房新社ふくろうの本)
古代エジプトうんちく図鑑(芝崎みゆき箸 バジリコ株式会社)
アブ・シンベル神殿(現地にて購入)

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。