アスワンとイシス神殿(フィラエ島)

カイロの南約860q。
スーダンとの国境に近いヌビア地方の入口・アスワン
古代から交易の拠点・前線基地として栄えて来ました。
2004年12月訪問

写真はアスワンハイダム


アスワンと言えば日本ではアスワンハイダムが有名です。アスワンハイダムは1970年に完成した巨大ダム。ダムによって造られた人造湖ナセル湖は琵琶湖の7,5倍もの広さで、これによりエジプトの気候が変わってしまったとも言われています。
アスワンハイダムにより、湖に沈むこととなったアブ・シンベル神殿を神殿ごと移動した大事業が有名ですが、アスワンにも島ごと移動させられた素晴らしい神殿があります。
ヌビア地方の入口だったアスワンは古代から交易で栄え、また、最前線の基地でもあったため、素晴らしい遺跡が残っているのです。


イシス神殿(フィラエ島)

ナイル川に浮かぶフィラエ島はオシリス神の妻でイシス女神がホルス神を産んだとされるエジプトの聖地。この島にはイシス女神のための神殿が築かれ、「ナイルの真珠」と呼ばれてきました。

もっとも現在のイシス神殿はアブ・シンベル神殿同様にアスワンハイダム建設による水没から守るため隣の島に丸ごと移転されているもの。しかも移転先の島の形までフィラエ島と同じに変えてしまったというのだから驚きです。アブ・シンベル神殿同様に保護の必要性が認められたわけです。

写真はナイル川から見たイシス神殿


現在残っているイシス神殿は有名なクレオパトラの父プトレマイオス12世が築いたもの。上の写真右側が神殿の入口にあたり、右から第一塔門・誕生殿・第二塔門・本殿と続きます。

ナイル川に浮かぶ島にあるイシス神殿にはボートで向かいます。
人気の観光地だけあって船着場はかなりの賑わい。



緩やかなナイル川を10分ほどボートで進むと巨大な神殿が見えて来ます。
   


多くの建物を見ながら、船着場の桟橋へ。期待感が高まります。
   


桟橋を降りると列柱廊が続いていました。レリーフが繊細で綺麗。




真っ直ぐ進むと正面に巨大な第一塔門が現われます。
左側の入口から入ると誕生殿、中央の入口から入ると前庭を通って第二塔門に出ます。



 第一塔門左側 誕生殿入口
入口左手は敵を倒すプトレマイオス12世
 第一塔門右側
ハヤブサの頭のホルス神とイシス女神


ここで神々の家族関係を整理しておくと、兄妹の関係にあるオシリス神とイシス女神が夫婦で、その息子がホルス神、そして息子(ホルス)の妻がハトホル女神です。

ホルス神はハヤブサの頭をした神。古代のファラオはホルス神の地上での化身とされました。

第一塔門を抜けると前庭に出ますが左手には誕生殿を取り囲む列柱にハトホル女神の顔が彫られていました。ハトホル女神はエジプトでは珍しく正面から顔が描かれることが多く、特に柱ではこのような姿で表されます。可愛い顔ですが耳が牛。雌牛の姿で表されることもある女神です。

   



そして、右手に第ニ塔門が現われます。
第ニ塔門にも中央にハヤブサの頭のホルス神、その左にイシス女神



ここから本殿に入るのですが、その手前には美しい列柱広間。

 本殿入口
 本殿手前の列柱広間

巨大な柱はパピルスをかたどっていて美しい。イシス神殿は保存がよく屋根もしっかりしています。
しかし、その分、奥まった部屋はどうしても薄暗くなってしまいます。風雨にさらされていないから、レリーフの保存状態はいいのですが・・・。その点、ここは明かりが入って、気持ちのいい空間。



いよいよ本殿。薄暗い部屋ですが美しいレリーフが数多く残されています。

イシス女神がホルス神を産んだ地と言われているだけに母子愛を感じさせるものが目につきます。
椅子に座るイシス女神が赤ん坊のホルス神を抱いて乳を飲ませています。



左下は、やはりホルス神に乳を飲ませるイシス女神。顔が壊されているのが残念
右下は、オシリス神・イシス女神・ホルス神
   

ホルス神はハヤブサの頭で描かれるのが普通なのですが、なぜか赤ん坊・子供の時は人間の頭で描かれます。しかも、裸。古代エジプトでは子供は「裸」で描かれるのが普通というか、裸だったら子供の意味。大人は決して裸では描かれないのだそうです。


こちらはオシリス神とイシス女神のレリーフ。顔が壊されているのが残念ですが、それでも美しい。
羽根を持った女神がイシス女神。イシス女神の羽根で守られているのがオシリス神。
死者の保護者としてのイシス女神の姿です。


エジプトの神話をはしょって紹介すると、オシリスは弟であるセト神に殺されてしまい、死体をばらばらにされてしまいます。それを妹であり妻でもあるイシス女神が拾い集め、オシリス神を復活させます。復活したオシリスは冥界の王となりました。
死後の生活を重視した古代エジプトでは、冥界の王であるオシリスは非常に重要な神。再生と復活から、枯れた植物が再び芽を出すということに結び付けられ、穀物神との性格も持っています。

イシス女神はオシリス神の妻であるとともに、ホルス神の母として尊敬されています。上のレリーフのように死者の保護者としても描かれます。イシス女神は頭の上に牡牛の角と日輪を載せているか、椅子(玉座)を載せています。


供物を受けるイシス女神(右)




供物を受けるオシリス神(右)
オシリス神はいつもこのような姿で描かれます。
ちょっとミイラっぽいというか、硬直的な姿です。




ホルス神。ホルス神の後ろにはライオンの顔の女神セクメト。
セクメトはハトホルの分身ともされるので、ホルスの妻として描かれているのか・・・。
ハトホル女神は雌牛の姿だったりするし、エジプトの神々は大らかなのか、超複雑なのか・・・。




美しい女神たち




 セクメト女神
 イシス女神



フィラエ島には、イシス神殿だけでなく、ハトホル神殿、トラヤヌス帝のキオスクなど、いくつもの建造物があります。下の写真はローマ帝国時代のトラヤヌス帝のキオスク。船着場の側の休息所なのだそうです。未完成ということですが、なかなか美しい建物。この建物の裏はナイル川です。





少し散策してみました。なんとも言えない素敵な雰囲気。
   


薄暗い神殿内のレリーフも神秘的ですが
外の明るい景色も魅力的。



ナイルの真珠と呼ばれるのも納得



ヌビア博物館

ヌビア博物館はヌビア地方の出土品を中心に展示されている博物館。
かなり現代的でお洒落な博物館なんですが、ちょっと照明が暗すぎるのが難。

ヌビア人の王
 
ヒヒの姿のトト神
 


他にもアスワンでの観光と言えば、オベリスクを切り出していた石切り場や
ファルーカ舟でのナイル川遊覧でしょう。

 切りかけのオベリスク
 ファルーカ舟



なんとも素敵なナイル川


カイロやルクソール、アブ・シンベルからの飛行機も便利
アスワンはちょっとしたリゾート地です。



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参考文献

図説古代エジプト2(河出書房新書ふくろうの本)
世界遺産を旅する12(近畿日本ツーリスト)

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。