ハトシェプスト女王葬祭殿

ルクソール西岸にあるハトシェプスト女王葬祭殿
エジプトで最初の女王が造った神殿です。
女王の神殿には王の神殿とは違う美しさがありました。
2004年12月訪問

写真は神殿全景


ハトシェプスト女王葬祭殿は、紀元前1500年ころにエジプトで最初の女王となったハトシェプストのための葬祭殿で、ルクソール西岸・王家の谷の東側にある断崖を背に建てられています。

当時のエジプトでは女性は王になれませんでしたが、他方で王の嫡出の長女に王位継承権があり、その夫が王になるという現在では分かりにくい制度になっていました。
ハトシェプストはトトメス1世の嫡出の長女として王位継承権を持っていて、彼女と結婚したトトメス1世の側室の息子トトメス2世が王となります。しかし、トトメス2世の死後、ハトシェプストは夫の側室の息子であるトトメス3世が幼少であることを理由に摂政となり、更には自ら王になってしまいます。

いくら王位継承権があったとはいえ、ほとんど離れ業に近い形で王になった彼女には、おそらく野心だけでなく才能もあったのでしょうし、彼女を支えた有能な官吏も多かったのでしょう。実際、この葬祭殿を設計・建築したのはセンムトという有能な官吏・政治家で、彼女の愛人でもあったと言われています。後にセンムトは追放されたそうですが・・・・。

断崖を背にするハトシェプスト女王葬祭殿(左)
右下は葬祭殿のテラスから下を見たところです。
   

紀元前1500年ころの建造物とは思えないくらいモダンな建物です。3階建てで各階が広いテラスをもっています。2階テラスの向かって左端はハトホル女神の礼拝所となっていて、その隣には女王が行ったブント国との交易を描いたレリーフが残っています。女王の治世では、エジプトで初めて貿易が行われただけでなく、シナイ半島で金の採掘を行うなど、平和で経済も盛んだったそうです。女王ならではの平和外交というわけでしょうか。太ったブント女王の姿は有名ですが、現在は博物館に保管されているそうです。
2階テラスの向かって右端はアヌビス神の礼拝所。そして、3階には女王の墓に続くとも言われる至聖所があります。



ハトホル女神礼拝所

ハトホル女神は愛と喜びの女神で人々を幸福に導くとされています。ホルスの妻でもあります。
大きな太陽を載せた牝牛の角を持った姿で描かれることが多く、時には牝牛そのもので表されます。

また、ハトホルはエジプトの神としては珍しく正面を向いた顔で表現されることが多く、その時は耳が牛の耳として描かれます。ハトホル女神礼拝所には、牛の耳を持つハトホル女神の顔を刻んだハトホル柱や、ハトホル女神の象徴である牝牛のレリーフなどが色も鮮やかに残っています。

   


牛の姿をしたハトホル女神の乳を飲むハトシェプスト女王



こちらは牛の姿をしたハトホル女神とハトシェプスト女王。
女王の姿は削られています。かっては、さぞ美しかったに違いありません。


エジプト初の女王として権勢をふるったハトシェプスト女王ですが、トトメス3世が成長し、力をつけてからは結局失脚することとなります。
そして、トトメス3世はこれまでの女王の平和路線とは一転し、エジプトのナポレオンと呼ばれるほど戦争を続け、国土を拡張し、そして、女王の像を全て破壊させました。

女王の像は破壊されたものの、ハトシェプス女王の造った神殿は美しい。

美しいライオン



 ハトホル神殿至聖所の入口
 交易や軍隊の壁画



アヌビス神礼拝所

アヌビス神は犬の頭をした神様。墓の守り神で、ミイラを作る神でもあります。古代エジプトでも番犬はいたのでしょうか、やはり忠実な性格だったのでしょうね。
アヌビス神礼拝所には、アヌビス神の坐像や立像が描かれています。
   


アヌビス神礼拝所には、他の神々のレリーフも色鮮やかに残っています。
左下は捧げ物を前にするアメン神。
右下はホルス神とトトメス3世
   


アヌビス神殿の天井です。
青い空に金色の星・・




3階テラス

3階テラスを進むと王の立像がいくつもある門があります。



ここを通ると第三テラスですが、第三テラスには、めぼしい建築物はありません。いくつかの柱の跡や、レリーフが残ってはいるだけです。
そして、3階テラスの断崖に面した部分に、右下のような岩窟至聖所があります。ここから女王の墓に続いているとも言われているそうですが、未だに女王の墓は確認されていないのだそうです。
まさか、トトメス3世が墓まで壊したわけではないのだろうけれど・・・。

   

考えてみると、ハトシェプスト女王はかわいそうな人でもあります。父の側室の息子と結婚し、夫の側室の息子に追われることになるのですから。ハトシェプスト女王に息子がいて、王になっていたら、全然違う歴史になってたのでしょうね。センムトとの関係も気になるところ・・・・。



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参考文献

図説古代エジプト2(河出書房新社ふくろうの本)
古代エジプトうんちく図鑑(芝崎みゆき箸 バジリコ株式会社)

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。