デルフィ2

アポロンの神域に入る前に人々が訪れたという
アテナ・プロナイアの神域とカスタリアの泉
美しいトロスが印象的
2019年12月訪問


写真はアテナ・プロナイアの神域のトロス


アポロンの神託で有名なデルフィ。神託がなされたアポロン神殿があるアポロンの神域の観光で終わるツアーも多いですが、デルフィの遺跡はアポロン神殿があるアポロンの神域だけではありません。他にも、人々がデルフィで最初に訪れたアテナ・プロナイアの神域、その後アポロンの神域に入る前に身を清めたカスタリアの泉、更にはデルフィで行われたピュティア競技祭のためのスタジアムやその練習のための運動場・ギムナジウムまでありました。実は前回デルフィを訪れた時にはアポロンの神域と博物館しか観光できず凄い心残りでした。念願かなっての訪問です。

遺跡にあった地図


デルフィの遺跡は山肌に広がり、地図の上ほど標高が高くなっています。当時の人々が辿ったアテナ・プロナイアの神域・カスタリアの泉・アポロンの神域の位置関係が分かるでしょうか。

アポロンの神域を更に上ったところにあるスタジアムはピュティア競技祭が行われた場所。ピュティア競技祭というのは、オリンピアで行われるオリンピック同様の競技祭。元々はアポロンが音楽の神でもあったことから音楽を競っていたそうですが、その後、運動競技も行われるようになったそうです。落石の恐れがあるとのことで、2017年も2019年も見学はできませんでした。
競技祭に出場する選手達はアテナ・プロティアの神域とカスタリアの泉の間にあるギムナジウムで練習に励みました。アテナ・プロナイアの神域やギムナジウムはアポロンの神域より少し下った位置にあって、アポロンの神域から見下ろすことができます。



写真左側から中央にかけて広がるのがギムナジウム。右側に小さくアテナ・プロナイアの神域のトロスも写っています。このデルフィのギムナジウムはオデッセウスが猪に襲われて傷を負った場所でもあります。オデッセウスがトロイ戦争後帰還した際、乳母はその傷から正体を隠したオデッセウスに気が付きます。ギリシャ神話は、こういったディテールの充実度が凄いですね。


アテナ・プロナイアの神域

プロナイアというのは「前に位置する神殿」という意味。
アポロンの神域の手前に位置することから来た名前のようです

ビュー・ポイントから見た神域


アテナ・プロナイアの神域は道路から下りていく場所にあります。
坂を下りていく途中、左に折れたところにビュー・ポイントはありました。

ビュー・ポイントにあった復元図


復元図、中央にあるのが前7世紀ころに建てられた@古アテナ神殿、その左に2つAB宝物庫が並び、前4世紀に建てられた円形の神殿Cトロス、前4世紀に建てられたD新アテナ神殿。


古アテナ神殿が山崩れで壊れたため、別の場所に新アテナ神殿が建てられたとされているので、実際には復元図のように5つの建物が並んでいた時期はないのかもしれません。

ヘロドトスは前480年にペルシャ軍がこの地に来た時、地震により山崩れが起こり、大岩がペルシャ軍を圧し潰したとしています。古神殿が壊れたのはその時でしょうか。

建物はほとんど基礎部分を残すのみ。トロスの3本の柱が修復されているだけです。

左の写真がトロス。写真からも分かるように円形の建物の周囲を列柱で丸く囲むという構造の建物。かっては15本の柱があったそうです。

このトロスが実に美しい。

現地ガイドさんは、この3本柱はデルフィの象徴と言っていました。実に絵になる景色です。

建てられたのは前380年ころ。ペロポネソス戦争は終結したものの、未だポリス間の抗争が激しかった時期にあたります。

現地ガイドさんはビューポイントからの眺めが一番素敵よ、と言っていましたが
折角なのでトロスの近くまで行ってみました。凄い急な坂道を下りていきます。

近くで見たトロス


しっかりと残る黒い基壇部分の上に3本のドーリス式の柱が修復されています。
内壁も少しですが残っていました。

よく見るとレリーフも残っています。



博物館にもトロスのレリーフは展示されていました。



彫られているのはアマゾネスとの戦い。


魅力的なトロスですが、実は使途不明の謎の建物
遺跡で見る限り内部はそんなに広くありません。何に使っていたのか・・・。

 復元予想図
 ライオンの雨樋


アテナ・プロナイアの神域からは美しい祭壇も見つかっています。
葉冠に飾り付けをする12人の乙女たち



遺跡に戻ります。トロスの周囲を散策していたらアポロンの神域が見えることに気付きました。
   


望遠で撮ってみました。
アポロン神殿やアテネ人の宝物庫が見えます。


かってデルフィを訪れた人々もアテナ・プロナイアにお参りをして、
ここから目指すアポロンの神殿を仰ぎ見たのでしょうね。


カスタリアの泉

アテナ・プロナイアの神域から数百メートルのところにあるカスタリアの泉
巫女や信者が神託を得る前に身を清めたとされる場所
いざ、行ってみたら、ちょっとイメージと違う。


復元図


泉といっても泉ぞのものではなく、泉から水を引いて身を清める場所だったようです。
泉の背後、柵はあって入れないし、手前の木々でよく見えませんが、2つの崖になってます。
   

どうやら2つの崖から流れ落ちる水が泉を作っていたようです。元々、カスタリアの泉という名は、アポロンの求愛を拒んだカスタリアというニンフが入水したことに由来しています。ですから、入水できるような泉が元々はあって、その泉の水で人々が身を清める場所が作られたのではないかと思います。泉の水は人々に詩文の才能を授けたとされています。柵がなければ崖の近くまで行ってみたかったですが、入れなくなっているのはやっぱり落石の危険があるのでしょうか。
ちなみに、まったく泉とは関係がない話ではありますが、イソップ寓話で有名なイソップ(アイソーポス)は、この崖から突き落とされて亡くなったそうです。

遺跡見学の後、デルフィの町に一泊しました。

デルフィの町

狭いけど、これでも町のメインストリート。レストランや土産物屋が並びます。


遺跡から600mほどのところにあるデルフィの町。デルフィ観光の拠点となるこの町の住人は、かって遺跡の上で暮らしていた人たちの子孫。デルフィの神域は神託が行われなくなった後、山崩れで埋まってしまいます。やがて、忘れられた遺跡の上に人々が暮らすようになり、村ができました。19世紀に遺跡が発見されると遺跡の上で暮らしていた人たちは現在のデルフィの町に強制移住させられ、遺跡の発掘が始まったのです。今は遺跡観光で賑わってますが大変でしたね。

山の斜面にあるデルフィの町。斜面を利用した建物が多く、レストランも入り口が2階だったりします。

階段が多い。猫がいたりします。
 
 町の下に広がるオリーブ畑

このあたりのオリーブ畑はギリシャ有数の広さだそうです。

ホテルの部屋は2階でしたが玄関のあるフロアが3階でした。
ベランダからはギリシャ本土とペロポネソス半島を分けるコリンティアコス湾がよく見えました。
夕日が沈んでいきます。


翌朝、山に遮られて日の出は見えませんでしたが
西の空がきれいなピンクに染まっていました。



デルフィはアテネから178qと日帰りも可能な場所
でも、やっぱり一泊するとゆっくり観光できます。
トロスは本当に美しかった。


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参考文献

古代ギリシャ・時空を超えた旅(2016年東博展覧会図録)
ギリシャ神話 呉茂一著 新潮社
ギリシャの神話・神々の時代 カール・ケレーニイ著 中央公論社
ギリシャの神話・英雄の時代 カール・ケレーニイ著 中央公論社
図説ギリシャ・エーゲ海文明の歴史を訪ねて 周藤芳幸著 ふくろうの本
図説ギリシャ神話・神々の世界篇 松島達也著 ふくろうの本
図説ギリシャ神話・英雄たちの世界篇 松島達也・岡部紘三著 ふくろうの本
目で見る世界七不思議の旅 森本哲郎編 文春文庫ビジュアル版
古代ギリシャがんちく図鑑 柴崎みゆき著 バジリコ株式会社

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。