テッサロニキの歴史的建造物

ギリシャ第2の街テッサロニキ
街に残る初期キリスト教会やビザンティン教会
3つの教会を訪れました。
2019年12月訪問

写真はアギオス・ディミトリオス教会


アレクサンダー大王の死後、カッサンドロスによって前315年に建設されたテッサロニキの街は、使徒パウロが伝道をしたことから、ヨーロッパ最古のキリスト教共同体が形成された街でもあります。ビザンティン帝国時代は首都コンスタンティノポリスに次ぐ第2の街として繁栄し、多くの教会が建てられました。しかし、15世紀に街がオスマントルコの支配下に入ると教会はモスクに改造されるなどして多くが破損してしまいます。奇跡的に残った初期キリスト教会やビザンティン時代の教会は1000年以上に渡るキリスト教会の変遷を示すものとして世界遺産に登録されています。


ロトンダ

ロトンダというのは円形の建物という意味。高さ約30m。内径約25m。


ロトンダは元々はローマ皇帝ガレリウスが自身の霊廟にしようと306年に建設したもので、すぐ近くにあるガレリウスの凱旋門とともにテッサロニキに残る最も古い建造物の一つです。ガレリウスはササン朝ペルシャとの戦いに勝利したローマ皇帝でしたが、キリスト教徒を弾圧したことから、キリスト教徒からは非常に憎まれた皇帝の一人でもありました。
キリスト教が公認され広まった400年ころにロトンダは教会に改造され、聖イオルギオス教会とも呼ばれています。教会内部はモザイクやフレスコ画で飾られましたが、15世紀にオスマントルコの支配下に入ると、教会はモスクに改造されてしまい、ミナレット(尖塔)も築かれました。歴史に翻弄された建物と言えます。テッサロニキがギリシャに復帰後、修復されましたが、残っているのは僅かなモザイクだけ。しかし、初期キリスト教建築物として世界遺産に登録されています。

ロトンダ内部


ロトンダの内部に入ると剥き出しの煉瓦が目立ちます。ロトンダは全体が煉瓦で造られていて木製の梁が支えるという変わった構造をしているのだそうです。よく見ると入り口正面に祭壇が置かれていて十字架も見えますが、全体的にはがらんとして、アーチの下にビザンティン美術のレプリカ等が置かれている簡単な美術館といった趣。

しかし、正面祭壇の上には9世紀のフレスコ画が残っています。



更にアーチをよく見ると、ところどころに美しいモザイクが残っています。5世紀のモザイクです。

入り口のアーチのモザイク
 
 別のアーチには鳥のモザイク


更に見逃せないのが天井です。鳥のモザイクのアーチ越しに見た天井ドーム。



天井ドーム


天井ドームは、その多くが剥落していますが
よく見ると美しいモザイクが残っています。

天井ドーム中央部分


このモザイクは5世紀のもの。今は剥落してしまっていますが、かっては中央に昇天するキリストが描かれていたそうです。今も残る部分には天球を支える天使たちが描かれています。赤い光を発している鳥の頭も見えますが、この鳥はフェニックスで不死と永遠の象徴なんだとか。

天使とフェニックスの部分を拡大してみました。


実に美しい。剥落せず残っていたら・・・。

天井ドームの下部には聖人と天国が描かれています。これは9世紀のもの
孔雀が描かれていますが、孔雀は天国の象徴なんだそうです。



ロトンダ内には各地のビザンティン時代のモザイクのレプリカが展示されていました。
モザイクって本当に美しい。かってのロトンダも素晴らしかったんでしょうね。
   


アギオス・ディミトリオス教会は街の中心部にありますが
ロトンダからは歩いて15分くらいの距離です。

アギオス・ディミトリオス教会



アギオス・ディミトリオス教会はテッサロニキの守護聖人ディミトリオスに捧げられた教会。ディミトリオスはロトンダを建設したガレリウス帝によって殉教させられた聖人です。彼が殉教したとされるローマ時代の浴場跡に5世紀ころに教会が建てられたと言われていますが、現在の建物は1917年の大火で古い建物が焼失した後に再建されたもの。そのため新しい建物ではありますが、焼失を免れた資材を使って再建され、7世紀のモザイクも残っているそうです。
古代ローマの影響を受けた中央身廊とその左右に側廊を持つバシリカ様式で建てられているのですが、左右の側廊がそれぞれ2列ある5廊式の非常に大きな建物でギリシャ最大の教会と言われています。この教会も初期キリスト教建築物として世界遺産に登録されています。

教会内部に入ると凄い人でした。日曜日の午前中、ミサの時間だったようです。


正面の黄金に輝くモザイクがまぶしい。左右の柱も立派だし、古いフレスコ画も目に入ります。
祭壇の左右に7世紀のモザイクがあるというのでミサの邪魔をしないように進んでみましたが・・・

探そうにもこのあたりまで来るのが限界。何か儀式しているみたいだし・・・。
それにしても古いフレスコ画が素敵。


聖ディミトリウスは殉死後、街の人々をペストから救ったり、6世紀にテッサロニキの街がスラブ人に包囲された際に街を守ったとされています。スラブ人に包囲され、街が絶体絶命の危機に瀕した時、なぜかスラブ人達が突然逃げ去り、街は救われました。降伏したスラブ人は撤退した理由をテッサロニキの街に大軍がいるのに驚いたからと述べ、赤毛で白いマントをまとった指揮官の特徴を語りました。存在しない大軍の話から街の人々は奇跡が起きたことを知り、指揮官の特徴から聖ディミトリウスがその奇跡を起こしたと信じたのです。その後、聖人の墓所から聖油が流れ出ると言われるようになり、戦いの際、街の人々は聖油を体に塗って出陣しました。
街の守護聖人を祀った教会は今でも大人気のようで人々が次々と訪れ、ミサは凄い熱気です。

左側の身廊に移動してみましたが、凄い人でやっぱり、これ以上は無理。
美しいモザイクも目に入るのですが、とても写真を撮れる雰囲気ではありません。



2階に上がれる階段があったので上がってみました。
2階から見た中央祭壇付近



アギオス・ディミトリオス教会には見どころが多いのですが
さすがにミサをやっているので、これ以上の観光は断念しました。
お土産屋さんがあったので覗いてみましたが宗教的なお土産のみ。
ここは地元の人にとっては観光地ではないようです。

アギオス・ディミトリオス教会から南に進み、ローマ時代のアゴラを過ぎると
すぐにパナギア・ハルケオン教会です。歩いて5分くらいでした。

パナギア・ハルケオン教会



パナギア・ハルケオン教会は11世紀に建てられた教会。アギオス・ディミトリオス教会に比べると小さな教会ですが、緑に囲まれ、とても素敵な雰囲気。煉瓦造りで、内部は正方形の平面の中に十字型の身廊・側廊を内包し、中央にドームを有する内接十字型という中期ビザンティン時代の典型的な建築様式となっています。八角形の2つのドームが印象的ですが、屋根の形が曲線と三角形だったり、多くの馬蹄型の窓など外観も美しい。この教会も世界遺産に登録されています。

中に入ると、ここもミサの真っ最中でした。人が多くては入れないほどです。
なんとも神々しい雰囲気。


小さい教会だから、ということもあるのでしょうけれど、この混み方は凄い。この教会の名前は「銅細工師の聖母」という意味で、鍛冶職人が多く暮らし、ギリシャ神話の鍛冶の神ヘファイストス神殿があったところに建てられたものなのだそうです。地域に愛された教会なんでしょうね。今でも近くの人達からの篤い信仰を集めていて現役の宗教施設なんですね。ギリシャの人たち信心深い。

信者の方々に申し訳ないので、入り口部分を見学しました。
入り口にはキリストや聖人のフレスコ画



異なる様式の3つの教会を見学しました。
ビザンティン時代って実に長い。
観光という意味ではミサのある日曜日は避けたほうが良いかもしれませんが
ミサの雰囲気を知ることができたのは貴重な体験でした。


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参考文献

図説ビザンツ帝国 刻印された千年の記憶 根津由喜夫著 ふくろうの本
21世紀世界遺産の旅 小学館

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。