ボロブドゥール

ジョグジャカルタから北西に車で1時間。
インドネシアが世界に誇る仏教遺跡ボロブドゥール。
柔和で優美なレリーフが印象的です。
2005年5月訪問

写真はボロブドゥール最上部


ボロブドゥールは世界最大規模の仏教遺跡。824年を示す碑文が発見されていることもあり、8世紀後半から9世紀にかけて、ジャワ中部のシャイレーンドラ王朝によって建造されたものとされています。
しかし、この王朝は11世紀ころに火山の大噴火等により滅亡したらしく、詳しいことは分かっていません。謎の多い遺跡でもあります。

824年といえば、日本では平安初期、空海が京都の東寺を開いた翌年です。空海と同時代の仏教寺院ということですね。日本で密教色の強い貞観文化が花開いたころ、ここジャワではボロブドゥールに素晴らしい仏教芸術が隆盛していたことになります。


ボロブドゥール全景


ご覧のとおり、ボロブドゥールの構造は変わっていて、通常の寺院のような屋根とか部屋というものは全くありません。

簡単に言うと、基壇の上に方形の壇が5段、その上に円形の壇が3段、そして、頂上に大ストゥーパ(仏塔)という構造。基壇を入れると9層になり、仏教の三界を示しているとの説もあるそうです。

方形の壇には回廊がめぐっていて、4つの回廊をめぐりながら登っていくと、円形の壇には釣鐘の形をしたストゥーパが全部で72置かれています。

このような形の建築物は他にありません。そもそも、ボロブドゥールを「寺院」というのが正しいのかも不明です。王家の霊廟という説もあれば、仏教の曼荼羅を表しているという説もあります。


右の写真はボロブドゥール入口付近。

ご覧のとおり、ボロブドゥールは小高い丘の上に築かれています。

発見当時、ボロブドゥールは埋もれた状態で、上には熱帯の木々が茂っていたそうです。

この「埋もれていた」というのも、「人為的に埋められた」のか「火山の噴火によって埋まった」のか未だに分かってないそうです。

なんでも寺院を覆っていた土砂と土台に使われていた土砂の土質が同じなんだとか。

人為的に埋めたとしたら、誰が、何のために?

何よりも、これだけのものが「忘れ去られていた」というのも、凄い話ですね。

ボロブドゥール周辺は公園に整備されていて、入口付近にはホテルやレストランがあります。

右の写真を撮ったあたりは土産物売りが群がってくる場所でもあり、「千円!センエン!」攻撃が凄まじい。
センエン攻撃をかいくぐりながら、遺跡に入ることとなります。



基壇・隠された基壇

丘の階段を登って行くと、遺跡正面の階段に出ます。


このまま登って行きたいのが人情というものですが、実は基壇部分にも見どころがあります。

正面から左に回ると、写真のように基壇の一部が凹んだようになっている場所に出ます。

ボロブドゥールの遺跡は東を向いているので、南東部分にあたります。

これは「隠された基壇」と呼ばれるもの。

実は現在の基壇の下に、古い基壇が埋もれているのです。

発掘調査により、埋もれた基壇には人間の善行・悪行についての説話が彫られていることが分かっています。

良いことをすれば良い結果が生じ、悪いことをすれば悪い結果が生じるという善因善果・悪因悪果がレリーフで説かれているわけです。

それらのレリーフは素晴らしいもので、何故、それが埋められてしまったのか、設計計画の変更なのか、それとも何か他の理由があったのか、それもボロブドゥールの謎のひとつと言われています。

ここでは古い基壇のレリーフの一部を見ることができるようになっています。



左下は「悪い顔」と呼ばれるレリーフ。彫られた人々の顔が歪んでいます。このレリーフの上部に古代ジャワ文字で「悪い顔」と書かれていたのだそうです。彫り師に指示するメモなのだとか。

右下は大酒飲みは家族を不幸にするというレリーフ。男性の下には酒樽が2つあり、酒で病気になった主人を家族が案じている姿だそうです。

   


隠された基壇の説明を聞いてから、いよいよ登っていくため正面に戻りますが、基壇部分も凄い。

小窓のようなところに置かれた等身大の仏像(座ってるのが見えるでしょうか)、海の怪物マカラの形の雨樋。マカラの頭を支えてるのは、ヤクシャでしょうか。そして、壁のレリーフも実に美しい。

   



回廊

いよいよボロブドゥールのハイライト、回廊です。
写真は第1回廊



回廊は第1回廊から第4回廊まであります。各基壇上に次の基壇(主壁)と基壇外縁の壁に挟まれる形で回廊ができているのです。
回廊の左右の壁には、仏教説話などのレリーフがびっしりと彫り込まれています。

ガイドさんの話によると、回廊を全部で10回ぐるぐると回りながら頂上に向かうのが本来のボロブドゥールの見学方法なのだとか。
回廊が4つなのに、なんで10回なのかというと、回廊の左右の壁には違う物語が彫られているし、第1回廊の壁は上の写真のように左右ともに上下2段にレリーフが彫られているので 4(第1回廊)+2(第2回廊)+2(第3回廊)+2(第4回廊)=10となるから・・・というわけです。

確かに、10周すれば各レリーフを堪能できるでしょう(熱中症にはなるかもしれませんが)。
しかし、現在では回廊のレリーフの物語のうち、よく分かってるのは第1回廊の釈尊の生涯の物語だけなので、じっくりと説明を聞きながら回るのは第1回廊くらいになってしまいます。

第1回廊は、常に4つの物語が同時進行しているので、かなり気が散ってしまいますが・・・。


釈尊の物語は天界の釈尊が人間のため地上界に降りることを決意するところから始まります。
地上に降りる準備をし、摩耶夫人の子として生まれることとなります。

宮殿内の釈尊の両親・浄飯王と摩耶夫人。左右には家臣やバラモン僧。



摩耶夫人が白象がお腹に入るという霊夢を見る。 
左上にいるのが白象。白象は天界の釈尊のことです。



馬車で出産のためルンビニ園に向う摩耶夫人。



太子は王宮での生活を送りながら成長しますが、生老病死を知り、出家の決意をします。

馬で城を出る太子 天人達が同伴し、馬の足を支えて音を消します。



自分の髪を切る太子 左手の帝釈天が髪を受け取ります。



5人のバラモン僧と苦行する太子。



苦行で弱った太子にスジャータが乳粥をふるまいます。



沐浴をする太子 左右に天女が舞い、太子に花をまきます。



この天女は素晴らしい。



少し下がって撮ってみました。太子の左にも天女が舞ってます。



沐浴の後、太子は菩提樹の下で瞑想に入ります。
上段は釈尊が右手で地を指し悪魔たちを追い払っています。
下段には全く違う物語が描かれているのが分かります。



上段 悪魔の娘たちの誘惑



悪魔を退け、悟りを得た釈尊が最初の説法をする場面で釈尊の物語は終わります。

他に第1回廊には天女と王子の恋の物語(マノハラ物語)、鷹に追われた鳩を助けるために王が鳩と同じ重さの自分の肉を鷹に与えるというシビ王本生話、妃の献身的な愛を説くサンブラー妃本生話、母親を足蹴にした若者が地獄に落ちるという四門本生話などが描かれていることが分かっていますが、全てのレリーフの解読が進んでいるわけではありません。

第2・第3回廊は善財童子の巡礼の物語、第4回廊は普賢菩薩の話だろう・・・くらいにしか分かっていないそうです。

そのため、どうしてもレリーフの美しさだけで写真を撮ってしまいます。逆を言えばお話が分からなくても目を引く美しさとも言えますが。


第1回廊、外壁側のレリーフ



ボロブドゥールのレリーフは彫が深いものが多いです。男性像も素敵。
   


半人半鳥のキンナリー・キンナラでしょうか。繊細な彫りが実に美しい。



表情がなんとも言えません。この柔和さはインドにもアンコールにもないですよね。
   


女性一人一人の表情が違います。木の後ろの女性がかわいい。



凛々しいお姿です。象が後ろにいます。



宮廷生活を描いたものでしょうか。




ボロブドゥールの回廊のレリーフは本当に見事で見入ってしまいますが、回廊に配置された仏像なども見落とせません。レリーフを見るのに疲れたら、時々周囲を眺めてみることをお勧めします。

   


残念ながら首が失われているものが多いですが・・・



回廊に置かれた仏像だけで、なんと432体もあるそうです。位置によって仏像の手の格好(印相)も違うので、チェックしていくと楽しい。

また、ボロブドゥールは緑の中の遺跡です。回廊から見える山々も森も、なんともいえず美しい。





回廊を登って、いよいよ演壇部分へ。
ボロブドゥールの各層を登って行くときには、必ず下の写真のような門を通ります。

この門、各層の東西南北に4つづつあります。

門の上部にあるのはカーラ。

写真には写っていないけど、下にはワニみたいなマカラというのもいます。

カーラとマカラはインドネシアでは、非常によく見る装飾。
魔よけのような意味があるみたいで、寺院の入口などにセットで彫り込まれていることが多いようです。

カーラというのは頭だけ。
不老不死の薬を飲んだところで首をはねられたんで、首から上だけになったのだそうです。

カンボジアでは自分の手足を食べちゃって首だけになった、とか聞いたような気もします。
もともとは、インドの死者の神「ヤマ」の別名だとか、仏教の閻魔だとか本には書いてありますが・・・
まあ、インドネシアではマカラとセットで魔を払うものとして扱われている、と考えるのが素直なようです。

それにしても細かいところまで美しいですね。



円壇・ストゥーパ

カーラの門をくぐり、ボロブドゥールの上部へ。



ボロブドゥールの上部は釣鐘型のストゥーパが林立する円壇となっています。



回廊部分が基本的に方形だったのに対し、ここは3段の円壇で構成されています。

円壇が3つ置かれ、一番上の中心に大ストゥーパが乗るという構造。

右の写真奥に写っている大きなストゥーパが大ストゥーパ。ひときわ大きい。上が折れちゃってるのが残念。

この大ストゥーパを中心に、3段の円壇の上に、釣鐘型のストゥーパがぐるりと円を描くように置かれています。

その数、全部で72。

小ストゥーパは格子状になっていて、のぞくと中に仏像が置かれているのがわかります。

格子部分が壊れて仏像が姿を現しているところがいくつかあって、絶好の撮影ポイントとなっています。もちろん、私も撮りました。

大ストゥーパには、かっては王の遺骨が入っていたのではないかと言われていますが、今日まで発見されていません。

盗掘にあったのか、それとも・・・これも、ボロブドゥールの謎のひとつです。


穏やかな表情の仏像
   


ボロブドゥールのストゥーパで、もう一つ外せないのが「仏像に触ると幸せになれる」と言われているストゥーパ。

正面(東側)の階段を登って、最初に目に入る二つのストゥーパのうち、右側にあるのがその幸せの仏像が入っているストゥーパです。

右の写真が、そのストゥーパ。

ごらんの通り、格子から手を突っ込んで、みんなが触ろうとしています。順番待ちができるほどの人気。

現地ガイドさんによると「女性は仏像の右足、男性は仏像の右手」に触れれば幸せになる・・と言われているそうです。

これやってみると、右足は簡単に触れるんだけど、右手は結構大変。男性の方が女性より手が長いから大丈夫なのかなあ。

たぶん、イスラムでは右が神聖なので、最初に目に入るストゥーパが神聖といわれて始まったんじゃないかな、とは現地ガイドさんの弁。

特に何の根拠もないみたいですが、やっぱり行ったら、やってみたいですよね。


 円壇部分は、壁もなく、周囲を見渡すときの開放感がなんともいえない素晴らしさです。

周囲は一面の緑。円壇を上に登っていくとストゥーパがぐるりと置かれているのがよく分かります。




美しいものであふれているボロブドゥールですが、こんなものもあります。
たぶん、獅子。いたるところに、二体でセットで置かれていて、狛犬みたいな感じ。

なんともいえない愛嬌があります。結構、色んなところで、色んなポーズをとってるので、これを見て回るのも楽しいかも。実は、後姿(おしり)も、かわいい。

   



以上、ざっと見たところで約4時間。
かなりの見ごたえがある、堂々たる世界遺産でした。
最低でも3時間はかけたい・・というか、かかるんじゃないでしょうか。



東南アジアの遺跡に戻る



参考文献

ボロブドゥール遺跡めぐり(新潮社 とんぼの本 田枝幹宏・伊東照司著)
この本はボロブドゥールに必携の本です。

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。