タルクィニア

ローマの北西約50q
ティレニア海に面した港町タルクィニア
謎の民族エトルリアの中心だった場所です。
2017年10月訪問

写真はネクロポリスの豹の墓


エトルリアは古代イタリア半島中部に発達した文化圏。鉱物資源に恵まれた土地だったことから、海上交易と産業で発展しました。紀元前10世紀ころには鉄器文明が興り、都市国家を形成し始めます。前7世紀には12の都市国家からなる連合体が北イタリアや南イタリアにも勢力を伸ばすようになり、前6世紀には最盛期を迎えます。当時のローマはまだ小さな都市国家で前7世紀末から前6世紀末まではエトルリア人の王が3代続いてローマを支配していました。その3人目、王政ローマ最後の王で驕慢王と呼ばれたタルクィニウスはタルクィニア出身です。しかし、前4世紀ころから徐々にエトルリアとローマとの関係は逆転し、前3世紀にはローマに攻撃され、やがてローマ文化圏に吸収されていきます。ローマの優れた土木・建築技術はエトルリアに由来すると言われていますが、エトルリア文字の解読が進んでいないこと等から謎の民族・文化とされています。

ネクロポリ



タルクィニアの町の東約2qのところにあるモンテロッツィの丘陵地帯に古代エトルリア人の地下墳墓群・ネクロポリがあります。

紀元前9世紀から前4世紀末までの墓が、この一帯から約6000も見つかっており、その中で玄室内部に壁画のある墓が20墓ほど公開されています。

この土地は乾燥した凝灰岩の大地で、古代エトルリア人は大地の下に切妻式の天井を持つ玄室を掘り、その壁をフレスコ画で飾りました。
元々あった地上部分は歴史の中で農地として使用されるようになって失われ、現在は墓地を覆う小さな建物が造られています。

内部に入ると狭くて急な階段。階段の先に玄室がありますが、玄室内の壁画を保護するため、内部の温度湿度がコントロールされているので中に入って見学することはできません。入口の小さな窓からガラス越しに内部を見学する形になります。
窓のところに電気のボタンがあって、これを押して見学するのですが一定時間立つと真っ暗になるので、時々ボタンを押さないといけません。しかし、見えにくい場所の壁画を入口に写真展示してあったり、なかなか工夫をしてくれている遺跡でもあります。

各墓の入口が小さいので各自勝手気儘に見学することに。
実際に見学したところを遺跡の地図に書き加えてみました。


軽業師の墓(前6世紀)


遺跡入口に近い軽業師の墓。
右側で杖を持って腰掛けているのが、この墓の被葬者
三角破風には右に青い豹。左に赤いライオン


回る女性の燭台の上に男性が円盤を投げようとしているところ。



狩りと漁の墓(前6世紀)


2室から構成されていて、見どころは奥の部屋
船に乗って漁をする人々と、鳥を狙っている人が描かれています。

頑張って撮った写真
 
 遺跡の説明写真


雌ライオンの墓(前6世紀)


正面には大きなワイン壺を中心に踊る人々。
左右には寝そべる男性。右側の男性は命のシンボルの卵を持っています。
三角破風の下に描かれている2匹の赤い雌ライオンが墓の名前の由来


雌ライオンというだけあって、おっぱいが目立ちます。
人々の下に描かれているイルカも跳ねているようで楽しそう。


豹の墓(前5世紀)


破風の下には2頭の白豹
正面は長椅子に横たわり宴会に興じるカップルと給仕する召使
当時、宴会の席では人々は長椅子に横たわりながら料理や会話を楽しみました。
白い肌の人物は女性のようです。男女2組と男性1組のカップル。


エトルリアは交易を通じてギリシャ文化の強い影響を受けましたが、ギリシャと異なり女性の地位が高かったようです。ギリシャでは宴会に女性が参加することはありませんでしたが、エトルリアでは宴会に同席する女性がしばしば描かれています。古代では珍しい男女同権社会?

中心の男女のカップル


楽師たち。笛を吹いたり、竪琴を奏でたり・・・


左側にも男性がずらり


お墓なのに、やたら明るいのは何故でしょう。エトルリアの最盛期である前6世紀のお墓はもちろん、前5世紀のお墓もなんとも明るい。ギリシャ世界では死後の世界について興味を示しませんでしたが、エトルリアでは死後の世界が重要視されていたようです。エトルリアでは輪廻転生を信ずるオルフェウス教が信仰されていたと言いますが、それと関係があるのでしょうか・・・・。オルフェウス教では信者には死後も幸福な生活が保障されるとされていたとの説もあるようです。


カロンティの墓(前3〜2世紀)
  これまで見てきた墓より後の時代に造られたカロンティの墓では偽扉の左右に二人の人物が立っています。左の人物などは鎌のようなものを持っています。

似たような様式の墓は他にもあるようで遺跡に説明写真がありました。下の写真は本物の扉の左右に描かれているものですが、まるで黄泉の国への扉の前に悪魔と天使がいるようには見えませんか。それとも、悪しき者から死者の魂を守る意味なのでしょうか・・・。
  

前3世紀はローマのエトルリアへの攻撃が始まった時代。そういった世相も関係しているのか・・・
ネクロポリ観光後はタルクィニアの町の考古学博物館に移動しました。

国立考古学博物館

   

タルクィニアの町の入口にある国立考古学博物館。15世紀のヴィッテレスキ枢機卿の邸宅が博物館となっていて、タルクィニア近郊から出土したエトルリア文明の出土品が展示されています。


海上交易で繁栄したエトルリア。交易の広さが分かります。
エジプト製の壺
 
 ギリシャの壺

ギリシャの影響は特に強かったようです。
ゼウスに給仕する美少年ガニュメダ、ゼウスの左隣にはアテネ


ギリシャ文化の影響を強く受けながら、エトルリアはカルタゴと組んで南イタリアやシチリアのギリシャ植民市を脅かしていたそうです。しかし、他方で、その豊かさからエトルリアには小アジアのイオニア地方から職人や芸術家が移り住むようになり、美しい美術品が生み出されるようになりました。ネクロポリスの壁画を描いた顔料もギリシャ由来のものだそうです。


エトルリアの特産品。黒くて硬い陶器。製法は国家機密でした。



エトルリア文字は西ギリシャ型のアルファベットが使われています。
ギリシャの影響が文字にも認められるわけですが、右から左に書くのが特徴
   

読み方は分かるものの意味が分からないところが多いのだそうです。


黄金の細工もありました。どれもとても小さく、技術が素晴らしい。
   


魚と波なのは海が近いからでしょうか
 


多くの石棺・陶棺も博物館の見どころのひとつ。
前7世紀ころから石棺・陶棺が造られるようになります。絵やレリーフで棺は飾られました。
棺の蓋には死者の姿。初めのうちは死者の彫像は平坦なものでした。



次第に死者の上体が起きてきます。美しい女性ですね。


ネクロポリの墓では長椅子に横たわり宴会を楽しむ人々の壁画が好んで描かれましたが、上半身を起こした被葬者はまるで宴会に参加しているようです。一族が眠る墓では上のような棺を人々が宴会を楽しんでいるように配置して一家団欒の宴会の様子を再現することもありました。


太ったお腹に、しわのある顔。写実性はエトルリアの特徴。


このエトルリアの写実主義がローマの肖像彫刻に引き継がれたのだそうです。


ネクロポリから運ばれた壁画(前6〜前5世紀)も展示されています。
こちらはオリンピック競技の墓。右には円盤投げの選手。


エトルリアではギリシャの影響でオリンピックが行われていました。
しかし、全裸だったギリシャと違って選手たちはスポーツベルトをしています。

反対側の壁画は2頭立て馬車競技。前を走る御者は振り返って後ろを見ています。



 船の壁画
こんな船で交易していたんですね
 宴会の壁画
宴会の場面は好んで描かれました。


写真展示にも興味深いものが多かったです。
 筋骨隆々とした男性
美しい羽根
 


この博物館で最大の見どころ、
有翼の馬の陶板レリーフ


タルクィニア近郊の女王の祭壇とも呼ばれる神殿から発見されたもの。前4世紀ころの作。
かっては神殿の破風を飾っていました。元々は馬車を引いていたようです。
エトルリア芸術の頂点と言われるとのことですが、それも納得の美しさ。

復元予想図
 
 有翼の馬が出土した神殿の全体写真


余りに美しいので無駄に撮りまくってしまいました・・・
結ばれている尻尾も綺麗。
   


隣の部屋にも興味深い出土品

牡牛を屠るミトラ


こちらは近郊のミトラ教の神殿から発見されたもの。古代イランのミトラ教が紀元前1世紀ころから地中海地方に伝わり、後2世紀にはローマ帝国内で下層階級を中心に広く信仰されるようになりました。何時の時代のものかをメモし損なったのですが、ミトラ教の歴史を考えるとエトルリアがローマの支配下に入った後の2世紀ころのものかもしれません。
この彫刻はミトラ神による聖牛供犠の場面を描いたもの。ペルシャ風の衣装のミトラ(ミストラ)神が牡牛の鼻を掴み、剣を突き立てています。首から流れる血を犬と蛇が飲もうとし、牡牛の睾丸にはサソリが飛びかかろうとしています。牡牛の流す血が大地を潤すとされていました。


博物館からは近くの海が見渡せます。
この海に古代のエトルリア人は乗り出して行ったわけですね。



博物館の写真展示で見た忘れがたい一品
意志の強そうな美しい女性像



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参考文献

ローマ古代散歩 小森谷慶子・小森谷賢二著 新潮社 トンボの本
エトルリア文明 ジャン・ポール・テュイリエ著 青柳正規監修 創元社 知の再発見双書 
21世紀世界遺産の旅 小学館
いちばん親切な西洋美術史 池上英洋・川口清香・新井咲記 新星出版社

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。