へミス僧院とチェクレ僧院

インド最北の地ラダック
ラダックの入口レーから南東へしばらく走ると
ラダック最大の僧院へミス僧院と、その分院チェクレ僧院があります
2014年8月訪問

写真はへミス僧院のパドマサンバヴァ(グル・リンボチェ)像


ラダックの入口、空港のあるレーの街からインダス川に沿って上流・南東に40キロほど進むとカルーの町に出ます。レーからの道は整備されてて快適。カルーの町から西に折れて山間部に進むと単独の寺院としてはラダック最大のへミス僧院に、そしてカルーの町から東に進むとへミス僧院の分院であるチェミス僧院に着きます。


へミス僧院

カルーの町からインダス川を越えて西へ
細くなった道を進みますがへミス僧院の姿はしばらく見ることができません。
山を回り込んだところで・・・山裾のへミス僧院がようやく見えて来ました。




へミス僧院入口。入口には大きなマニ車。駐車場も立派です。


見学の前にトイレに行ったら、清潔で綺麗なトイレでした。
チベット文化圏はトイレが清潔で嬉しい。


僧院の中に進むと大きな中庭と立派な建物に出ます。
入口が2か所ある珍しい建物です。


へミス僧院は17世紀にラダックを治めていたナムギャル王朝のセンゲ・ナムギャル王が高僧タクツァン・レーパのために創建した寺院です。16世紀に興ったナムギャル王朝は17世紀のセンゲ・ナムギャル王の時に最盛期を迎えていました。センゲ王が父王のための堂を建てるべく悩んでいた時に現れたのがチベット僧タクツァン・レーパ。タクツァン・レーパは「西に伝道する」という使命を受けてラダックを訪れていました。タクツァン・レーパはセンゲ王に適切な助言を与え、王の信頼を得ます。そして、タクツェン・レーパは王家の導師として敬われ、へミス寺院も王家の庇護の元、栄えることとなります。ドゥクバ・カギュ派の寺院です。

王家の庇護を受けた僧院には多くの僧が集まり、そのためかドゥカン(僧の集会所)が2つ並んでいます。入口が2つあるのは、そのためなんですね。現在へミス僧院の僧は60〜70人ということでしたが、かっては1000人もの僧がいたのだとか。チベットの巨大寺院には及ばないものの、かなりの規模だったことが分かります。ドゥカン前の中庭も立派ですが、ここは有名なお祭りの舞台。



へミス僧院では毎年チベット暦の5月10・11日(西暦だと7月ころ)に、この中庭で盛大なお祭りが行われます。お祭りではチベットに密教を伝えたパドマサンバヴァ(グル・リンポチェ)の偉業を伝える仮面舞踊が催されます。パドマサンバヴァはインドの王子として生まれながら密教行者となった人物。8世紀にチベットに招かれますが、その際、仏教伝道を阻むチベット各地の神々を調伏し、仏教の守護神に改心させたと言われています。それがなぜか10日に集中していることから、このお祭りは「10日」の意味の「ツェチュ」と言われているとのこと。パドマサンバヴァは調伏の際、様々な姿に形を変えたということで、このお祭りでは8変化の舞が見られるそうです。

中庭に立つ3本のタルチョン
髪の毛のようにみえるのはヤクの毛
 
 中庭を囲む回廊
壁には84の修行の図



まずは1つ目のドゥカン(僧の集会所)。

ご覧のとおりの綺麗な入口。

ただ、残念なことに内部は撮影禁止。

このドゥカンで印象的だったのが、タクツァン・レーパの像。

既に書いたように、タクツァン・レーパはセンゲ・ナムギャル王の信頼を得てナムギャル王朝の導師となった人物です。

タクツァン・レーパは「西に伝道する」という使命からラダックを訪れますが、更に西のアフガニスタンまで伝道に行ったとされます。

そのためイスラム教徒とも交流があったということで、イスラム風の衣装や帽子の姿をしていました。

チベットの寺院では高僧の像が祀られていることが多いです。

像は体を、ストゥーパは心を、そして書物は言葉を残すものとされているんだそうです。


2階に進むと巨大な像が現われ圧倒されます。

これはチベットに密教を伝えたパドマサンバヴァ(グル・リンボチェ)の像。へミス寺院のお祭りでチベット各地の神々を調伏した際の八変化が舞われる高僧で、チベットに密教を伝えた人物。

華やかな衣装に身を包み座っている像を見ると本当に「僧」?と思いますが、これはパドマサンバヴァが元々はインドの王子として生まれたということに由来するのだそうです。

パドマサンバヴァは8世紀の人。チベットに最初に仏教が伝わったのは7世紀ですから、チベット仏教初期の人物ということになります。チベット仏教は初めから密教色が強いんですね。

チベットの伝承によると、かってインドの王が王子に恵まれなかったことから如意宝珠を探しに出かけます。王は如意宝珠を得ます(ここらへんのお話は結構あっけない)が、その帰りに蓮の花の上に男の子が居るのを見付けます。
王は感じるものがあったのか、その男の子を連れ帰り、王子とします。

その王子がパドマサンバヴァ。

蓮の花から生まれた凄い人なのです。


像の高さは8m。凄い迫力。



王子として成長したパドマサンバヴァは妻を得て子供も儲けますが、やがて、仏教の修行の道に入り、高名な密教行者となります。

妻子がありながら修行の道に入る・・というのはお釈迦様と似ていますね。

でも、お釈迦様が穏やかなお顔で表現されるのに対し、このパドマサンバヴァのお顔は目を見開いた迫力を感じるものです。

チベット布教の際に、それを阻もうとする神々を調伏した時の姿なんでしょうか。

上の写真、左手に持つのは金剛杵。日本でも密教の法具で五鈷杵や三鈷杵がお馴染みですが、悪を払う、という点でチベットも共通なんですね。外に向けて、悪魔が来ないようにしているそうです。悪霊退散・・って感じなのかなあ。

チベットならではと思うのは、右手に持つ杖。
左の写真のように、人の頭が付いてます。
一番上は骸骨、その下は青い顔、その下に赤い顔。これは過去、現在、未来を表わすんだそうです。
色々と意味があるんでしょうけど突っ込んで聞けなかったのが残念。


日本に帰ってから読んだ本によると、パドマサンバヴァは役行者と行基と弘法大師を合体させたような存在なんだとか。なんとも凄い。ちなみに日本では東大寺が建てられた時期で、パドマサンバヴァは鑑真和上とほぼ同時代人。チベットと日本の仏教の伝わり方の違いが面白いですね。


更に進むと屋上へ。
屋上からみると実に多くの建物があるのかが分かります。

 ヨーロッパからの寄付で学校が建設中
僧の住居。高僧ほど上に住んでるそうです。
 



もう1つのドゥカン(僧の集会所)
こちらは撮影可能でした。



昨年修復が終わったという壁画が綺麗です。
   


過去・現在・未来の三世仏や千体仏が見事。
そして、チベット仏教独特の仏たち

恐ろしい憤怒の姿
 
男尊と女尊が抱き合う父母仏
 



 なんとも優しげな菩薩
 形の異なる2つのストゥーパ

へミス僧院には立派な博物館もあります。撮影禁止ですが見ごたえあり。
本などのお土産も買えます。

次はチェムレ僧院。カルーの町に戻り、そこから今度は東へ進みます。


チェムレ僧院

岩山に僧坊が建ち並ぶチェムレ僧院



へミス僧院の分院であるチェムレ僧院までも道路状態は良く、とっても快適なドライブ。

チェムレ僧院は遠くからもその姿が良く見えます。左の写真のように強烈な印象を与える姿。

岩山の頂上から山裾にかけて建物が建ち並ぶ姿は本当に壮観です。

頂上にドゥカン(僧の集会所)があり、その下に建ち並ぶのは僧の暮らす僧坊だそうです。

山と僧院が一体化しているようでもありますし、まるで要塞のようにも見えます。

この寺院はタクツァン・レーパがセンゲ・ナムギャル王が亡くなってから王の菩提を弔うために建てた寺院なんだそうです。

凄いと思いつつも、あの山の頂上まで、どうやって行くのかと不安になりましたが、この僧院も頂上まで車で行くことができます。山裾をぐるっと回り込む形で車は登って行きます。

私達の車の前を結構大きなトラックが上まで登って行ったのには驚き。工事車両?


まずはドゥカン(僧の集会所)


千体仏が印象的


タクツァン・レーパ像
ちょっと分かりにくいですがヒゲがあります。
 
高僧の写真が置かれています。
棚の中の綺麗なのはバターで造られた供え物
 


釈迦牟尼と二大弟子
 
曼荼羅
 


ドゥカンの上には古いお堂があって、痛みが激しいものの見事な壁画があるのですが、残念ながら修復作業中で写真撮影は禁止となっていました。壁の汚れを落とす作業中だったようです。綺麗に甦るといいですね。

その代わりというわけではないのですが、偶然、お供えものの儀式?を見ることができました。チベットではバターから綺麗なお供え物が造られるのですが、それを捧げる儀式のようです。

 お堂の入口でお経が読まれています。
 綺麗な花のようなお供え物


へミス僧院もチェクレ僧院も王家の僧院だけあって立派な僧院です。
へミス僧院は、やっぱり巨大なパドマサンバヴァ像が印象的。
チェクレ僧院は、その姿だけでも見ごたえがあります。

実はこの後、レーに戻る前にティクセ僧院とシェイ王宮も廻っています。
その途中、幾つもの僧院を見ることができました。

遠くに見えるマト僧院は我らがガイドの僧院
ラダック唯一のサキャ派僧院
 
 幹線道路から近いスタクナ僧院
手前を流れるのはインダス川


道路が良いので観光も楽。
ただ、陽射しは物凄かった。



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参考文献

ダライ・ラマの仏教入門(光文社 ダライ・ラマ14世著)
増補チベット密教(筑摩書房 ツルティム・ケサン 正木晃 著)
図説チベット歴史紀行(ふくろうの本 河出書房新社 石濱裕美子著)
ラダック密教の旅(佼成出版社 滝雄一・佐藤健著)
ラダックザンスカールトラベルガイド(ダイヤモンド社)
チベット(旅行人)

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。