レー

インド最北の地・ラダック
ラダックの入口レーは19世紀までラダック王国の都でした。
今も王宮跡や僧院が残ります。
2014年8月訪問

写真はレー王宮


インド北部のジャンムー・カシミール州。ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に挟まれたインダス川の上流地域をラダックと呼びます。ラダックとは「峠を越えて」との意味。標高3000mを越える地ですが、シルクロードの中継地点として古来から栄え、19世紀まではラダック王国として独立していました。
ラダックはチベット仏教の影響を色濃す残すチベット文化圏。中国に占領されているチベット以上にチベットらしさが残る、と言われている場所です。デリーからラダック王国の都だったレーまで飛行機で1時間15分。

早朝の飛行機でレーへ向かいました。

高い山々が連なるヒマラヤ山脈
 
 荒れた大地に緑の筋

荒涼とした大地の所々に筋のように緑が広がるのが見えてくると、飛行機は高度を下げ、レーの街に到着。レーの標高は3500mを越えます。空気が薄い。私達のツアーでは高地順応のため、まず標高の低いアルチ(約3100m)に数日滞在してからレーに戻りました。レーから観光するなら初日はゆっくり体を休めて、高地に慣れてからにした方が良さそうです。


レーの街角 
王宮が良く見えます。遠くの山の上にナムギャル・ツェモ僧院


レーはラダック王国の都だっただけあって、ラダックでは最も大きな街なのですが、中心部は30分くらいで歩けてしまいます。「街」というより「町」なのかもしれません。それでも、ラダックのお土産を買うなら、やっぱりレー。特に写真集などはレー以外では買えません。もっとも絵葉書も写真集も圧倒的に多いのはラダックの風景を写したもの(それかチベット美人)。意外なことにチベット仏教美術関連のものは中々見当たらず、郵便局近くの小さな本屋さんで、やっとアルチ僧院やラダックの仏教美術の写真集を見付けることができました。アルチ僧院の写真集は400ルピー、2500ルピー、4500ルピーと種類も豊富。15000ルピーのラダックの仏教美術の写真集は迷いに迷ったけれど買えなかった。日本円で約2万8000円、今思っても安かったのか高かったのか・・・。



シャンティ・ストゥーパ

レー北西の丘の上に立つシャンティ・ストゥーパ。


白亜のストゥーパは遠くからも目を引きます。
高さは17m。

この仏塔は日本山妙法寺という日本のお寺によって建てられたもの。

日本とインドの協力によって1985年から建設が始まり、1991年に完成したそうです。

漢字で「南無妙法蓮華教」とあったので、日蓮宗のお寺なのかもしれません。

白亜のストゥーパはサンチーのストゥーパをモデルにして建てられたみたいです。

ガイドブックには日本との縁は切れているように書かれていますが、実は交流はちゃんと続いていて、今でも毎年、お寺の中村師が訪れているそうです。

このストゥーパ、非常に見晴らしが良い場所に建てられているので、地元の人たちの間ではデートスポットとして人気とのこと。

確かに素晴らしい見晴らし。
美しい山々や、レーの街が良く見渡せます。


ストックカンリ峰6153m。真ん中やや右寄りの三角形の山です。



山の上に立つナムギャル・ツェモ僧院と山裾のレー王宮(右手)


この僧院と王宮を見に行きます。


ナムギャル・ツェモ僧院



ナムギャル・ツェモ僧院は16世紀後半にラダックの都をレーに定めたナムギャル王朝が建てた王族専用の寺院。ナムギャル王朝以前のラダック王国はレーにほど近いシェイを都としていましたがナムギャル王朝はレーに遷都し、王宮を建て、その後、王宮を見下ろす山の上に、この僧院を建てたのだそうです。ナムギャル・ツェモのツェモとは「頂上」という意味なのだとか。


「頂上」というだけあって、見晴らしが凄い。
五色のタルチョがはためく様は壮観。




最初のお堂に入ると・・・なんともカワイイお顔の弥勒菩薩

 椅子に座っている姿です。
カワイイ。このお顔はカワイイ。
 


どうして、こんなにカワイイんだろう。目かなあ、口かなあ。


この弥勒菩薩は17世紀のもので修復して綺麗にしたのだそうです。
大きさを聞いたら「椅子から7m」とのこと。椅子の下の足は測らないのか・・・。

天井画が残っていました。
 
 こちらは壁画。新しいものみたいです。


この上にもお堂があるというので、足場は悪いですが登って行きます。

お堂の中には顔を五色の布で覆った仏像が置かれていました。


顔を覆った仏は大黒天と金剛畏怖だそうです。金剛畏怖は水牛の頭を持つチベット密教最強の守護尊。冥界の王ヤマ(閻魔)をも撃殺する霊力を有し、チベット密教史上に猛威を振るった呪殺の秘宝「度脱法」の本尊であるとともに、ゲルク派の守護尊でもある・・・と本に書いてありました。良く分からないけど、ともかく凄い仏みたいです。顔を隠しているのは教えを理解していない人たちが見るには霊力が強すぎるから。チベット密教の興味深い仏像ですが、ここは壁画も凄かった。


保存状態が極めて悪いですが、お釈迦様。周囲に弟子達。



 仏像の後ろの壁画
 色も鮮やか。


 緑ターラ
 観音でしょうか。美しい。


 多くの仏たち
修復されているらしき部分
 


素晴らしいだけに保存状態の悪さが気になる。
 
 綺麗な仏だったに違いありません。

ここまで見た時点で、かなり満足してしまったのですが
実は更に上にお堂があります。足場がかなり悪いけど頑張って登ることにしました。


中央正面には美しいストゥーパ


ストゥーパの両脇には十一面千手観音とターラ菩薩
日本の仏像は中性的な姿が多いですが、チベットでは女性的な仏像が多いです。

 十一面千手観音
 ターラ

さすが王室専用僧院

堂内も見事でしたが、ここで印象的だったのは、はためくタルチョ
タルチョというのはチベット独特の経典が印刷された五色の旗
風が仏法を世界に運ぶと言われ、山の頂など風の強いところに張られます。
ここのタルチョは本当に壮観。いかにも「聖地」といった感じ。

   



レー王宮

ナムギャル・ツェモ僧院の下にレー王宮があります。

ナムギャル・ツェモ僧院よりは下にあるものの、レーの街を見下ろす高台に王宮はあります。

右の写真のように、山から垂直に立ち上がったような姿はラサのポタラ宮に似ています。

この王宮が建てられたのは17世紀。ポタラ宮とほぼ同時期です。ポタラ宮のモデルになったという説もあるとか。

王宮を建てたのはセンゲ・ナムギャル王。
センゲ・ナムギャル王はラダック王国周囲のグゲ王国やザンスカール王国を併合し、ラダック王国の最盛期を築きました。
それだけでなく、チベットの高僧タクツァン・レーパを王家の導師とし、へミス僧院などを建てるなど仏法にも熱心だったようです。

王宮は9階建て。かっては美しい王宮だったのでしょうけれど、19世にラダック王国が滅んだ後は崩壊が進み、一時は危険なほどだったといいます。
現在は修復が進められており、写真が展示されている場所もありますが、余り見るべきものはありません。

ただお堂が残っているというので、見学することとなりました。


現地ガイドさんの後を付いて進み、お堂に着きました。
本尊はお釈迦様のようです。




チベット独特の仏も置かれていました、
十一面千手観音かと思いましたが、傘を持っています。
この傘で一切衆生を救ってくれるのだそうです。
白傘蓋仏母といいます。

 傘を持っているのが分かるでしょうか
 頭も千あるのだとか。冠のようです。


守護尊
 
 彩られた柱に架けられた仮面


見上げたら、壁画が残っていました。


かっては王室の人々が日々祈りを捧げていたんでしょうね。



民族舞踊

レーのホテルでは庭で民族舞踊を見ることができました。
売れっ子らしく30分遅れて到着。

民族衣装の女性は可愛い。
 
 男性陣の戦いの踊り。


トルコ石を豪華に縫い付けた頭飾り
母から娘へと代々引き継がれる家宝ともいえるもの
   


陽射しは強いものの夕暮れ前のひととき。



なんともいえない穏やかな気持ちになれました。
8月のレー、日中は陽射しが厳しいですが
夕暮れとともに涼しい風が吹き始めます。


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参考文献

ダライ・ラマの仏教入門(光文社 ダライ・ラマ14世著)
増補チベット密教(筑摩書房 ツルティム・ケサン 正木晃 著)
図説チベット歴史紀行(ふくろうの本 河出書房新社 石濱裕美子著)
ラダック密教の旅(佼成出版社 滝雄一・佐藤健著)
ラダックザンスカールトラベルガイド(ダイヤモンド社)
チベット(旅行人)


基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。