バールベック

フェニキア時代からの聖地バールベック。
巨大なジュピター神殿に美しいバッカス神殿。
ローマ帝国最大の神殿域です。
2003年7月訪問。

写真はジュピター神殿の6本柱。後ろに見えるのはバッカス神殿。



バールベックはベイルートの北東86K、シリア国境にも近いベカー高原のほぼ中央にあります。古代から肥沃な場所で、しかもナイルとメソポタミアを結ぶ要衝の地として栄えたところで、フェニキア時代にはフェニキアの主神バールを祀っていました。

ローマ帝国がバールベックに侵攻してからは、ローマ帝国の地方支配の方法が「地元民の信仰を否定するのではなくローマの神々との習合を図る」というものであったため、バール神をローマの主神ジュピターと同一視して、ローマ皇帝がジュピター神殿を建設するようになりました。建設は、紀元前から始まり、完成したのは、あの悪名高いネロ皇帝の時とされています。


遺跡入り口に、バールベック遺跡の説明図がありました。下に描かれているのが復元図です。

バールベック遺跡は、ジュピター神殿、バッカス神殿、ビーナス神殿の3つの神殿からなっています。
巨大なジュピター神殿の横にバッカス神殿が並び、少し離れたところにビーナス神殿という配置です。

フェニキア時代には父・母・子の3神が祀られており、父神バール・ハダドは天空と嵐の神、母神アナトは水と豊穣の神、そして子なる神アリヤンは植物の霊を体現していたのだそうです。
この3神への信仰がジュピター・バッカス・ビーナスへの信仰に形を変えたわけです。


復元図の上はジュピター神殿の説明図。
右側が入り口、階段を通って6角形の前庭(この6角形というのはローマにはなく、フェニキアの伝統)を通り、生贄を捧げたりする儀式を行った大庭園、その奥が本殿となっています。

ジュピター神殿の本殿は度重なる地震で、ほとんど壊れてしまっていますが、残っている6本の巨大な列柱は有名。

バッカス神殿は、現存するローマ神殿の中で最も保存状態が良いといわれています。



ジュピター神殿

このジュピター神殿、入り口から6本列柱までかなりあります。まず、入り口の階段からして巨大。
しかも、かってはその幅が43mあったとのことですし、階段の石はエジプトのアスワンから運ばれた赤御影石と豪勢です。巨大な入り口の階段を登ってから、その先の6角形の前庭、そして大庭園に進むのですが、広すぎて、今自分がどこにいるのか分からなくなってしまいます・・。

   

ようやく大庭園に出ました。コンサート会場になっています。この遺跡では昔から芸術家を呼んでコンサートを行ってきたのだそうです。コンサートができる程の広さの庭園を持つ神殿って凄いですよね。この大広場には生贄を捧げる祭壇の跡が残っています。




大庭園を進むと、巨大な6本列柱が見えてきます。
近寄ると、その巨大さがわかります。

人の入った写真だと大きさが分かるのではないでしょうか。
実は柱の左から3本目にも人が写っています。柱の基礎より人が小さい・・・。
6本柱の後ろに写っているのはバッカス神殿です。



柱の太さは2・2m。柱の高さは20m以上。
こんな大きな柱の上に、どうやって天井・屋根を乗せたんでしょうか。
柱と柱の間の装飾も美しいです。




ジュピター神殿内から見た6本柱(左下)と
逆光になってしまいましたが、バッカス神殿から見た6本柱(右下)。

   


バッカス神殿から見ると、柱や基壇の大きさがよく分かります。右の写真の下の方に余りに小さくてわからないかもしれませんが実は人が写っています。下の石段の上に崩壊された柱がいくつか置かれていて柱の断面が丸く写っているのですが、その側に小さく写っているのが人です。ジュピター神殿の柱の太さは2・2mですから、人の身長より、よっぽど大きいわけです。

このジュピター神殿の土台には「トリ・リトン」と呼ばれる巨大な土台石があり、なんと長さ20m、幅4.5m、高さ3.6m、重量は800t。これは現在の技術では運べない大きさと言われています。

ジュピター神殿から、バッカス神殿に向かう途中には、かってジュピター神殿を飾っていた装飾がたくさん転がっています

右は、ライオンが口を開けた、綺麗なレリーフ。

綺麗だと思って、写真を撮っていたところ、実は、これはジュピター神殿の屋根の雨樋だとの説明を受けました。

屋根の水を集めて、このライオンの口から、雨水が落ちる仕掛けになっています。

このライオンの雨樋は、他にもいくつも転がっていました。

雨樋でさえ、これだけの装飾なのだから、かっての壮麗さは、それこそ、想像を超えるのかもしれません。

ローマ帝国時代は、ローマからもジュピター神殿への巡礼者が絶えなかったのだそうです。

ローマ帝国では4世紀末のテオドシウス1世がキリスト教を国教とし、異教を禁止しましたが、その時までジュピター神殿の建築は続いていたそうです。

その後、7世紀にイスラム教徒の侵攻により、神殿は要塞に姿を変え、次第に荒廃して行きました・・・。



バッカス神殿

ジュピター神殿の6本柱付近から見たバッカス神殿。
神殿を背面から見た形になります。



現存するローマ神殿の中で、最も保存状態がいいといわれるだけのことはあります。屋根以外はほとんど残っていて、コリント式の柱が神殿内陣を取り囲んでいる様子がはっきり分かります。


こちらはバッカス神殿の前から撮った写真



屋根が崩落しているものの神殿前面の階段・入口・内陣が見事に残っています。この神殿は150年ころに建造されたもの・・・これだけ残っているのは奇跡と言って良いのではないでしょうか。

バッカス神殿はジュピター神殿よりはずっと小さいですが、それでも間口34m、奥行69mという立派な神殿です。内部にも美しいレリーフなどが残っています。


神殿入口の天井部分。美しいです。





右下は、バッカス神殿のジュピター神殿側の天井。
コリント式の柱に支えられた天井には、美しいレリーフがびっしりと飾られています。
このレリーフは神々を刻んだものなのだそうです。
ところどころ、この天井部分などが崩落していて、近くで美しいレリーフを見ることができます(左下)。

   



バッカス神殿入口の階段近くに飾られていたレリーフ
バッカス神です。
もともとは、神殿内部を飾っていたもの。
バッカス(酒神)が、少年というか青年の姿で描かれています。





採石場

遺跡のすぐそばにある採石場にはバールベックの神殿用に切り出されるはずだった巨石が残されています。人が乗っているので(右下)、大きさが分かりやすいかと思いますが、長さ21,5m、高さ4,2m、厚さ4,8m、重さはなんと約2000t。世界最大の切石と言われています。

   


巨大遺跡バールベックの迫力は圧倒的です。
大きすぎて写真だと迫力を伝えにくいかもしれません。
バッカス神殿の美しさも素晴らしいです。


西アジアの遺跡に戻る



参考文献

ユネスコ世界遺産(講談社)
イスラムの誘惑(新潮社)
世界遺産を旅する10(近畿日本ツーリスト)

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。