クントゥル・ワシ

ペルー北部カマハルカから車で4時間
標高2300mの小さな村にクントゥル・ワシ遺跡はあります。
ここは日本の調査隊によりアンデス最古の金が発見された場所
2011年9月訪問

写真は十四人頭金冠


クントゥル・ワシ遺跡は紀元前1000年ころから約1000年に渡って祭祀活動が行われた神殿です。世界遺産になっているチャビン・デ・ワンタルと同じ時期の遺跡で、チャビン同様にジャガー・ヘビなどのレリーフが多く残ります。また、エクアドル海岸の貝・アマゾンのジャガーの骨・ボリビアのソーダライト(青石)といった遠方の資源が集まっていたということでも非常に興味深い遺跡です。

日本の調査隊が発掘したことから、日本の資金援助により博物館が作られており、遺跡も博物館の裏手から登って行きます。下の写真が博物館。



博物館には発掘された金製品などが展示されている他、遺跡の歴史を勉強することができます。

日本語表記がなされており、とても助かります。日本語の本も売られていますし、絵葉書も充実。

クントゥル・ワシ遺跡は@イドロ期(紀元前950年〜)、Aクントゥル・ワシ期(紀元前800〜)、Bコパ期(紀元前550年〜)、Cソテーラ期(紀元前250年ころ〜紀元前後))と4回に渡って神殿建設が繰り返されました。

そのうちAクントゥル・ワシ期の中央基壇から1990年の発掘で5つの墓が発見され、うち4基から金製品の副葬品が発見されました。アンデスで見つかった最古の金製品です。最初に載せた十四人頭金冠は最初に見つかった老齢の男性の墓から発掘されたものです。

その後の発掘でも次々と墓が見つかり、貴重な出土品の発見が相次いでいます。女性の墓もあれば、頭を殴られた犠牲者のものも発見されています。

出土品の特徴は、なんといってもジャガーのモチーフの多さでしょう。ジャガー神の意味はよく分かっていないものの、水・雨と地下に関連するのではないかと言われているそうです。 

金製ジャガー・双子鼻飾り(クントゥル・ワシ期 「5面ジャガー金冠の墓」出土)



五面ジャガー金冠(クントゥル・ワシ期 「五面ジャガー金冠の墓」出土)



十二横顔ジャガー金冠(クントゥル・ワシ期 「蛇・ジャガー耳飾りの墓」出土)



金製蛇・ジャガー耳飾り(クントゥル・ワシ期 「蛇・ジャガー耳飾りの墓」出土)




細かな細工の技術も大したものです。
左下 鳥形首飾り(クントゥル・ワシ期)        右下 ジャガーの頭形首飾り(コパ期)

   



土器も多数発掘されています。

鳥形鐙形壺(クントゥル・ワシ期) かわいいですね。


         
 左下 蛙形鐙形壺(クントゥル・ワシ期)
 右下 ジャガー面装飾鐙形壺(コパ期)



博物館をじっくり見学してから遺跡に向かいます。博物館の裏から山道を歩かないといけません。 


ちょっとしたハイキングです。

しばらく山道を歩くと、遠くに遺跡が見えてきます。

遠くに見える丘の頂上部分が平たくなっているのが分かるでしょうか。あれが遺跡です。


クントゥル・ワシの神殿は、
@イドロ期(紀元前950年〜)に、大きな丘の頂上部分を平らに削り、漆喰を敷き詰めた神殿域を準備して築かれたのが最初だそうです。

イドロ期の神殿域は余り広くなかったものの、
Aクントゥル・ワシ期(「紀元前800年〜)になると神殿域が拡大されました。

丘の上に幅140m、奥行き160mの巨大な基壇が築かれたのです。

この時、排水のための地下水路も考えた上で基壇が築かれたというから驚きです。

 


クントゥル・ワシ遺跡は発掘調査の後、埋め戻されてしまっているというので、全体図をおさらいします。博物館にあった説明図です。

神殿は4回に渡って神殿更新が繰り返されていますが、これはAクントゥル・ワシ期(紀元前800年〜)の姿。
この時に基本構造が定まったようです。

神殿前の広場から中央階段を登って基壇の上に行くと、四角い中央広場があり、中央広場を挟んで中央階段の正面に中央基壇があります。
その奥には円形の広場もあります。円形広場というとカラルを思い出しますね。

Bコパ期(紀元前550年〜)になると円形広場は方形広場に形を変えました。



神殿前の広場から上を見上げたところです。右が中央階段。
基壇の横に排水口があるのが分かります。



この中央階段、今は登れませんが、登ったところに興味深いジャガー像があります。

中央階段の下から見上げたジャガー像
 
 中央階段を登って反対側から見たジャガー像

中央階段を登ったところにあるジャガー神の石碑は裏と表で彫りが違います。手前の広場から登った時に見えるレリーフは両目が丸い(左上)ですが、階段を登って振り返ると、左右の目の形が違う不思議な姿です(右上)。これは蛇目・角目ジャガー石像と呼ばれ、この遺跡を代表する出土品です。博物館に絵葉書もあったので購入しました。下の写真がその絵葉書。レリーフが良く見えます。向かって左の目は四角く、右の目の奇妙な形は蛇が取り巻いているのだそうです。半人半獣の姿ですが、口の牙がジャガーの証?手に持っているのは何?足が交差してるのは何故?置かれた位置からして重要なものだったのは間違いないと思いますが、なんとも不思議な像です。





中央広場方向に向かうと、中央広場の手前に、また不思議な石像があります。
これは蛇目ジャガー石像と呼ばれています。博物館にレプリカがあったので並べてみました。
   

目が丸いのに何故蛇目なのだと思いますが、なんでもよく見ると蛇の頭があって、蛇が丸くなって目の形になっているのだとか。この像も不思議な像です。口から牙がでていることから、ジャガーと言われれば納得せざるを得ませんが・・・。



この像の後ろが、かっての中央広場。
像の真後ろの広場の向こう側に中央基壇があったとのことですが、今では全く想像もできません。


この中央広場は半地下のような形で一段低くなっています。昔は、この中央広場の壁に漆喰が塗られ、様式的に表現されたジャガーや蛇が描かれていたのだそうです。今の姿からは当時を想像することも難しいですが・・・。


左下は中央広場から中央階段を見たところ。
中央広場に降りる階段の赤い石に刻まれているのもジャガーだそうです。

右下は中央広場の横の階段。この赤い石もジャガーだということ。

   


この赤い石は博物館にも置かれていました。出土品なのかレプリカなのか・・・。



博物館には他にもジャガーらしきものが置かれていました。
出土品かレプリカなのかは不明。これらも中央広場にあったものなのでしょうか・・・。
   


中央広場の周囲をしばらくうろうろしてみましたが、墓が発見されたことを説明する看板があるくらいで、かっての円形広場がどこなのかも分かりませんでした。遺跡保存のためには埋め戻しは仕方ないんでしょうけれど、ちょっと寂しいですね。もう少し復元してくれるといいのになあ。


周囲の景色を見ながら戻ることになりました。
山の上にある遺跡だけあって眺めが素晴らしい。途中、意味ありげな石組みも。
   



最後に中央階段を神殿前の広場から見上げてみました。
神殿前の広場の手前にも石組みが残っていました。




博物館の収蔵品は素晴らしいし、
遺跡も変わっていて面白いのですが
もう少し復元してほしいなあ、というのが正直なところ。
周囲の景色と雰囲気はとても良いのですが。



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参考文献

古代アンデス 神殿から始まる文明(朝日新聞出版・大貫良夫/加藤泰建/関雄二 編)
クントゥル・ワシ神殿の発掘(日本経済新聞社・大貫良夫/加藤泰建/関雄二 監修)