ロータス・フォート

一度はムガール帝国を滅ぼしたアフガン出身のシェール・シャー
ロータス・フォートはアフガンの英雄シェール・シャーが築いた要塞です。
難攻不落と評されながら、英雄の死後まもなく役割を終えました。
2015年1月訪問

写真はインナー・フォートの折り重なる城壁


ロータス・フォートは16世紀にアフガンの英雄シェール・シャーが築いた要塞・砦です。アフガン出身のシェール・シャーはムガール帝国第2代皇帝フマユーンを破り、ムガール帝国を北インドから駆逐して、デリーを支配し、スール朝を拓きました。ムガール帝国は、この時、一旦、滅んだことになります。スール朝はアフガニスタンからパキスタン、北インドを支配する帝国でした。

シェール・シャーは北からの遊牧民の侵攻に備えて、この要塞ロータス・フォートを築きます。しかし、シェール・シャーの死後、フマユーンの反撃にあってスール朝は滅び、ムガール帝国が復活します。ロータス・フォートは難攻不落と言われながら、一度も実戦を経験することなく、短い使命を終えました。ロータス・フォートはアフガンの英雄の栄華を伝えてくれる世界遺産です。

右は遺跡にあった案内板に描いてあったシェール・シャー。男前ですね。

シェール・シャーは非常に優れた人物だったようです。彼は帝国の州を県という行政単位に分け県ごとに行政官と司法官を任命しました。そして公平な司法を行い、小作人の権利を守ったため、民の信頼も厚かったそうです。
またイスラム教徒とヒンドゥー教徒の融和を図ったり、税率を変更したり、通信機関の改善を図ったりと多くの善政を行いました。

このシェール・シャーの政策をムガール帝国3代皇帝アクバルは引き継ぎ、それがムガール帝国の繁栄を導いたと言われています。つまりアクバル大帝の偉業は実はシェール・シャーの継承なわけです。日本では余り知られていませんが、シェール・シャーってアフガンの英雄と呼ぶにふさわしい凄い人のようです。

更に、シェール・シャーの偉業としては、アフガニスタンのカブールからカイバル峠を越え、ラホールを通り、アーグラまで通じるGTロード(グランド・トランス・ロード)を開いたことがあげられます。
このGTロードの途中にロータス・フォートは築かれました。

GTロードは今も現役の幹線道路。
私たちもイスラマバードからGTロードを通って向いました。

ロータス・フォートは世界遺産となっていますが、実は内部に村があり、人々が暮らしています。
ロータス村の中にあった案内図を撮ってみました。

ロータス・フォートはカハーン川沿いのソルトレンジ(塩の山脈)上に建てられています。自然の地形を生かした要塞で、難攻不落と歌われました。城壁は等高線に沿って築かれたため不規則な形で、その長さは5qにも及び、川に沿った部分だけで1qを超えるそうです。



上の地図でも分かると思いますが、ロータス・フォートは2つの部分に分かれています。上の地図の左奥の部分はインナー・フォートと言い、右の広い部分がアウター・フォートです。今のロータス村はアウター・フォートにあります。また、ロータス・フォートには多くのゲートがあります。ゲートの数は12。また、ロータス・フォートには3つの井戸もありました。籠城にも耐えられる構造です。

地図右上のハース・ハーニー・ゲートがGTロードに通じる門。私たちも、ハース・ハーニー・ゲートから入り、ロータス村で車から降りて観光したのですが・・・・実は訪問した日は霧が非常に濃く、初めのうちは霧で霞んでほとんど見えなかった・・・。段々、霧も晴れて行ったんですが・・・。


最初に訪れたソハリ・ゲートは霧の中・・・
見えない・・・。


少しづつ霧が薄くなっているような気はするので
晴れてくれることを祈りつつ、観光を続けます。
村の中を通って行きます。


井戸

まだ霧が濃いですが・・・
銃眼が並ぶ城壁の手前に写っているのが井戸。
手前の丸いのが井戸。その奥の長方形は井戸に通じる階段。


要塞であるロータス・フォートには軍人など3万人が生活をしていました。その軍人たちや家畜たちのために造られた3つの井戸のうち、最も大きい井戸が上の井戸。そばに人が写っているので、その巨大さが分かると思います。深さは80〜90mとのこと。地下水を汲み上げるというより、雨水を貯めていたそうです。井戸に水が少なくなると、近くのカハール川から家畜に水を運ばせたのだとか。かっては屋根も造られていたそうです。でも、これだけ深いと汲み上げるのも大変そう。

井戸に通じる階段。148段。
 
 下から見上げたところ


この井戸の近くから城壁の外側に出ることができたので、ちょっと行って見ました。
霧の中に浮かび上がる巨大な城壁。凄い。


城壁の上には銃眼が並びます。
ロータス・フォートが築かれた16世紀は戦いで銃が使われた時代です。

ちょっと視点を変えてみたら・・・・
城壁が断崖に造られていることが分かります。
これを攻めるのは大変でしょう。まさに難攻不落のロータス砦。


ロータス・フォートが自然の地形を生かした要塞であることを実感。

城壁の厚さはかなりのものです。
城壁の中に戻る途中、放牧中のヤギさんに遭遇
 
 井戸の近くの別の場所から城壁に登れました。
この垂直感は凄い。


少しづつ霧が薄くなっています。
戻る途中でソハリ・ゲートを撮り直してみました。

ソハリ・ゲート

城壁内側から見たソハリ・ゲート


ソハリというのは聖人の名前、門には聖人の廟もあります。上の写真の右側に白く写っているのが聖者廟。門は石造りで、城壁の内側にはあまり装飾はありません。しかし、門をくぐって外側から見ると、アーチの両側に小さなバルコニーが設けられており、門の上には銃眼が並びます。
バルコニーにはインド・ヒンドゥー風の装飾が施されていて、これはロータス・フォートのゲートでは珍しいことなのだとか。現地ガイドさんによると、この門の出来が素晴らしかったので、門を建てた職人は二度と同じような門を建てることができないように腕を切り取られたんだそうです。




ゲートの左右は大きく円形に張り出しています。ここに大砲でも置いたんでしょうか。
 
 


ロータス村の遺跡案内図がある付近に戻ってきました。
来た時は霧で分からなかった建物が見えます。今度はあの建物を目指します。




シャー・チャンド・ワリ・ゲート

上の写真で見えていたのはシャー・チャンド・ワリ・ゲート
この門は二重構造をしています。

最初の門
 
 中に入ると2つ目の門


門の中から最初にくぐった入口を見たところ。


この門は城壁部分に登ることができます。
上に登って銃眼を覗いていたりしたら、少し空が青くなってきました。

2番目の門。この門には小窓もあります。


このゲートをくぐるとインナー・フォートです。

インナー・フォート

門を抜けると広々とした空間。
まだ霞んでますが、青空となりました。
美しい建物が2つ見えます。


左に見えるのが大臣マン・シングの宮殿。右の木の陰になっているのが大臣の妻の宮殿です。
ロータス・フォートは要塞で守備兵が詰めている場所だったことから、王がここに住んだということはありませんでした。王の代わりに要塞に詰めていたのが大臣マン・シング。妃の父、つまりシェール・シャーの養父にあたる人物です。現地ガイドさんがシングというのはシーク教徒の略と言っていたのでシーク教徒だったのでしょうね。かっての宮殿は、もっとずっと大きかったということですが、どちらも大部分が壊れてしまっていて、今残っているのは一部分だけ。


宮殿の近くに回り込んでいきます。
宮殿の手前が調練場で、左奥の城壁の上が処刑場。



近くに行くと、どちらの宮殿もほとんどが壊れてしまっているのが分かります。

大臣の宮殿。2階建てで上に登れます。
 
 妻の宮殿。かっては4部屋あったそうです。

武骨な要塞の中で優美さを感じられる建物ですが破壊が凄い・・・
建物の角の部分だけ残っているんでしょうね。印象的な建物です。

シャー・チャンド・ワリ・ゲート近くから見た宮殿
ちょっと霧が残っています。
 
 霧が晴れてから撮った宮殿
かっては手前にも部屋が続いていたのでしょう。

宮殿内部は荒れ果ててしまっていました。

しかし、大臣の宮殿や近くからの見晴らしは素晴らしい。
宮殿の裏手は谷のように低くなっていて、連なる城壁が良く見えます。
まだ霧が残っていて霞んでしまったのが残念ですが、ロータス・フォートの巨大さを実感。



城壁が重なるように連なっています。
奥の城門の手前にあるのはモスクだということです。



モスク付近を撮ってみました。
写真中央でアーチが3つ連なっているのがモスク。



宮殿から見た近くにある処刑場
城壁の上部が円形になっていますが、そこで処刑をしたのだとか。



ここで自由時間。
宮殿の下の谷間は強盗が出て危ないというので立入禁止。
残念ですがモスクに行くのは諦め、近くの処刑台に登ることにしました。

連なる城壁
城壁の上も結構な広さがあります。
 
 処刑台
ここから罪人を落としたのだそうです。


インナー・フォートはカハーン川沿いに建てられています。
川が近いせいか霧が残ってしまったのが残念ですが、城壁の外側は断崖絶壁。
晴れていれば凄い迫力だろうなあ。霧も霧で趣はありますが・・・。



下に降りて処刑台付近を撮ってみました。
人がいるので巨大さがよく分かると思います。



処刑台から延々と続く城壁。
残念なのはゴミが散乱していること。世界遺産なんだから掃除すれば良いのに・・・。



横から見たシャー・チャンド・ワリ・ゲート



ちょっと後ろに引いて撮ってみました。
インナー・フォート側から見たシャー・チャンド・ワリ・ゲート全景



案内板があったところに戻ってきました。
霧が晴れてシャー・チャンド・ワリ・ゲートが良く見えます。




ハース・ハーニー・ゲート

帰りもハース・ハーニー・ゲートを通ります。
最初は霧で全く見えなかったけれど、立派な門です。
GTロードに通じているのですから、当初から主要な門の1つだったのでしょう。



写真を撮りたかったので車を停めてもらいました。
この門も二重構造になっています。

城壁内から見た外側の門
 
 内側の門


これにて観光終了。

門からは延々と連なる城壁が見えました。



難攻不落のロータス・フォート。
実に素晴らしかった。
霧のない時に、また訪れたいです。

村のポストから出した絵葉書は10日で日本に届きました。


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参考文献

ユネスコ世界遺産D(小学館)
世界遺産を旅する8(近畿日本ツーリスト)

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。