ラ・ベンタ遺跡公園(オルメカ)

メソアメリカの母文明と言われるオルメカ文明
その中心地だったラ・ベンタからの出土品を展示する公園がビジャエルモッサにあります。
ラ・ベンタ遺跡公園の展示品を中心にオルメカ文明をまとめてみました。
ラ・ベンタ遺跡公園以外の物は展示場所を本文中に記載してあります。
ラ・ベンダ遺跡公園は2002年12月訪問

巨石人頭像bP 戦士



オルメカ文明はメキシコ湾岸地帯で紀元前1200年ころから前400年ころに栄えた文明です。紀元前1200年ころにサン・ロレンソを中心に宗教的都市が栄え、紀元前900年ころに中心地がラ・ベンタに移りました。有名な巨石人頭像はこれまでに17個発見されており、造られた時期は紀元前1200年から前600年ころに集中しているそうです。写真の巨石人頭像は高さ2.4m、これでも十分巨大ですが、これまでに発見された最大のものは高さ3.3m、重さ20tを越えるそうです。


巨石人頭像bPの横顔




巨石人頭像は他にも展示されています。
これは「老いた戦士」と言われる巨石人頭像。




右の巨石人頭像はかなり保存状態が悪いですが、「若い戦士」と呼ばれています。

これらの人物像、ひとつひとつ顔が違うので、実在の支配者の顔を彫ったのではないかと言われています。

他方で大きな目・大きく平たい鼻・分厚い唇などが共通。一見ネグロイドの顔に見えます。
でも、ネグロイドの人骨は全く発見されていないのだとか。

それにしても、これほどの巨大な石をどのようにして運んだのか。

また、これらの巨石人頭像は全て穴を開けられたり、傷つけられた形で発見されています。霊力をそぐための行為だそうで、裏を返せば、これらの像は、本来、凄い力を持つと信じられていたのでしょう。

いずれにせよ、この文明を築いた民族については不明のまま。

「オルメカ」というのはアステカ語で「ゴムの国の人」という意味。
この文明が栄えた地帯がメキシコ湾岸の雨量の多い一帯でゴムの木が多いことから名付けられたのだそうです。




巨大な顔だけでなく、小さな像でもオルメカ独特の「顔」があります。

右の写真はメキシコシティにある国立人類学博物館の展示品。

幼児というか赤ん坊のような身体に、釣合のとれない顔。

頭が妙に長いのは、メソアメリカで広く見られる頭蓋変形だと思うのですが、この表情はなんなのでしょうか・・・。

大人びているというか、妙に訳知り顔というか・・・・・。

赤ん坊の体についている大人の顔・・・なんとも言えない違和感を感じます。

通称、「ベビーフェイス」と言うそうですが、どう見ても赤ん坊の表情ではないですよね。

このような顔の人物像は各地でたくさん見つかっています。



ベビーフェイス以上に不思議な顔もあります。

腫れぼったい目に、つぶれて上を向いた鼻、口は動物のように曲がっています。
かなり不気味。

これはジャガー的特徴を持った人物像と考えられていて、「半ジャガー人」とか「ジャガー人間」とか言われています。

ジャガー人間の像は、なぜかみな幼児の姿で、女性が半ジャガー人の幼児を抱いた像なども発見されており、人間の女性とジャガーのあいの子のような神を崇拝していたのではないかと考えられているそうです。

このジャガー人間の像やベビーフェイスのようなオルメカのものはメキシコ高地やグアテマラ、更にはホンジュラスのコパンなどからも発見されていて、オルメカがメソアメリカ広域に影響を与えていたことは間違いないようです。

実際、右の写真もグアテマラ国立考古学民俗学博物館に展示されていたものでグアテマラの出土品です。


ラ・ベンダ出土の会議する人々


6本の石碑の前に変形した頭を持つ人々が立っています。人々の大きさは20センチ弱の小さなものですが、それぞれ別の緑石から造られています。不思議ことに、これらの人々と石碑はこのままの姿で埋められていました。埋めた後にちゃんとあるかをチェックする穴まであったそうです。なんらかの供物の意味があったのではないかと考えられているそうですが・・・。
ラ・ベンダ遺跡公園の展示室にもレプリカはありますが、オリジナルはメキシコシティの国立人類学博物館で展示されています。



ラ・ベンダ遺跡公園の野外展示品に戻ります。

ラ・ベンタ遺跡公園のジャガー人間として有名なのが左の祭壇5「子供の祭壇」(紀元前900〜前600年)。

正面には洞窟のような場所から子供を抱いて出てくる人物が刻まれていますが、この子供がジャガー人間と言われる姿をしています。

どことなく不気味な雰囲気がしますが、オルメカの神話を描いたのではないかとも言われているようです。

マヤでは人間は洞窟から生まれてきたという神話があったので、オルメカでも同じような神話があったのかもしれません。

抱かれている子供はぐったりしているように見えますが、これは仮死状態の子供の姿とも言われ、意識を失っている間に子供の魂が地下世界を旅して予言する力をもたらす・・という説もあるようです。

・・・と、難しい説明聞いても、やっぱり、不気味という印象はぬぐえません。
なんというか・・・私の中ではオルメカって、「何とも言えない不気味感」です。
この感覚。雨の多い、湿気の多い場所ならではの不気味感なのか・・・。日本のお化けの怖さに通じるような、ぬめっとした不気味感。


この祭壇は左右にも子供を抱いた人物像が刻まれており、その子供もジャガー人間。抱いている大人とは明らかに顔が違います。左下の写真が分かりやすいでしょうか。

   


それにしてもジャガーと人間のあいの子という発想はどこからきたのか。どうやら、ジャガーは水の神と考えられていたようです。なぜ、ジャガーが水の神?と思いますが、雨が多いのはジャングル、ジャングルの王はジャガーということで、ジャガーが水を司る神とされたのだとか。なんだか連想ゲームのようですね。

ラ・ベンタにはメソアメリカ最古のピラミッド(土製で山のような形)が造られましたが、そこは水の神ジャガーを祀った場所だろうと言われています。

そして、オルメカのものがメキシコ高地で多数発見されていることから、雨の少ないメキシコ高地の人達が雨を求めるために、雨の多いオルメカの水の神を祀る場所に集い、祭事をおこなったのではないかとの説が有力のようです。また、オルメカ文明の衰退期である紀元前400年ころは、ちょうどメキシコ高地などで独自の神殿が発展し始めた時期なのだそうです。それまでオルメカに巡礼をしていた人々が、地元で神を祀り始めたのでしょうか。


仮面のモザイク


ジャガーといえば、ちょっと信じられませんが、上の写真もジャガーの顔なんだそうです(紀元前900〜前600年)。綺麗なモザイクの床にしか見えませんが、なんでも上の方の4つの菱形が歯で、下の方の茶色い部分がおでこ、真ん中が鼻で、その左右が目だとか。
つまり上下逆転して見るのが正しいらしいのですが、どう頑張ってもジャガーの顔には見えませんでした・・・。

しかも、このモザイク、わざわざ埋められていたのだそうで、それも謎です。会議する人たちの像といい、埋めることに何らかの重要な意味があったのでしょうね。
まあ、ジャガーというのも、あくまで有力な学説ということで(他にもジャガー人間だとか蛇だという説もあるようです)、オルメカに関しては正直どう考えるべきか分からないものが多いようです。


例えば、下の祭壇もしくは玉座(紀元前900〜前600年)と言われるものも説が分かれています。正面の人物が縄のようなものを持っていて、側面の人物が縄を持っている?ことから、捕虜を縄でつないでいる勝利の玉座だという説もあれば、人と人の絆を縄で表したのだという説もあるとか。まるで正反対の見解が成り立つことが学説の面白さなんでしょうか。でも、これも何となく不気味ですよね。このオルメカ独特の雰囲気は何と表現すればいいんでしょう・・・・・。
   


右は石柱を組み合わせた墓所(紀元前900〜前600年)。

古い本では神聖なジャガーを飼っていた場所だと書かれていました。確かに、石製の檻のように見えます。

しかし、いくつかの本を確認したところ、最近では墓所としての説明が定着しているようです。


この墓所には2体の幼児が翡翠などの豪華な副葬品と共に埋葬されていたとのこと。

幼児には貴重な赤色顔料が付着していたこと。

そして、2体には奇形が認められるとのこと。

これがどのような意味を持つのか・・・


奇形のある子を神の子として大切にして葬ったのかもしれませんし、嫌な話ですが生贄にされたのかもしれません。

いずれにせよ、オルメカではベビーフェイスにしろ、ジャガー人間にしろ、幼児が祭祀上大きな地位にあったようです。



巨石人頭像以外にも支配階級と思われるモニュメント・石碑が多数あります。

モニュメント77 支配者
 
石碑2 王の石碑

左の人物は頭飾りを付け、マントをしています。
右の人物も頭飾りが立派。手に持っているのは王笏でしょうか。



対話の祭壇
2人の人物が会話をしているようです。




 石碑3 あごひげの男
 モニュメント63 旗を持つ人物

左上の石碑は、下の方に二人の人物が向かい合い、上に人物が浮かんでいます。右下の人物の横顔はかなりハンサムです。マヤでは息子を空から見下ろす父王の姿がよく描かれ、そのような図柄の起源はオルメカとのことですが、この石碑もそういったものなのでしょうか。

右上の石碑、横向きの人物が大きく手を振りかざしているように見えます。上にあるのが旗?



次の2つは女性像なのだそうですが・・・
モニュメント5 おばあちゃん
 
 石碑1 若い女神

どちらも、余り女性らしくありません。おばあちゃんの方は、本当におばあちゃんなんでしょうか。
若い女神も胸とかあるし、スカートっぽいのはいてるから女性なんでしょうが、凄く逞しい肩と腕。



動物のモニュメントもいくつかありました。

モニュメント56 空を見上げる猿
 
 モニュメント60 子供のジャガー

この「空を見上げる猿」、まるで現代アートのようではありませんか。
子供のジャガー、かわいいけど、ジャガーというよりカエルみたい。



モニュメント20 イルカ


「イルカ」とされていますが、「オルメカの竜」とも言われているようです。大地の神とされるワニを表していて、への字の口や鼻は人間、眉毛は鷲の冠毛で様々な申請を組み合わせているというのですが・・・。イルカにも見えるし、ワニと言われれば、そんなきもするし・・・。




左は有名な石碑19

蛇の頭飾りを被って、そこから顔を出し、蛇の上に座っている神官(紀元前900〜前600年)。

このように動物の口から顔を出す頭飾りは、その後のマヤ、更にはアステカまで続きます。

また、この神官が乗っている「蛇」の頭には鳥類の鳥冠のようなものがあります。

このように蛇の頭と体を持ちながら、鳥的要素も持っていることから、これは初期の「羽毛の蛇」ではないかとされています。

羽毛の蛇、すなわち、マヤのククルカン、アステカのケツァルコアトルです。

このレリーフ、パレンケのパカル王墓のレリーフと同様、何らかの機械を操作しているように見えるとのことで、超古代文明が好きな人達からは人気があります。

確かに、何をしているんでしょうね。右手に持っているバッグのようなものも謎です。

これはレプリカ。
国立人類学博物館に本物があります。



このようにオルメカの多くが謎なのも、後のマヤと違って文字が解読されていないから。

文字らしきものは既にあり、右の写真で人物とともに描かれているのがそれだと言われています。モニュメント13 「歩く人」です。

人物の手の下あたりから何か丸っぽいのが縦に彫られていますが、それが文字ではないかとのこと。
ただ文字らしきものがあるとは言っても、文章というほどのものではないし、数が少なく解読には至っていないようです。

メソアメリカ諸文明の母とも言われるオルメカ文明(紀元前1200〜前400年)ですが、今のところ最古の文字はオルメカ文明に続いて興ったサポテカ文明(前500年〜後750年)のものとされています。また、メソアメリカといえば暦ですが、これも今のところサポテカ文明が最古ではないかとのこと。

とはいえ、最近の本ではオルメカで最古の文字が発見されたとの記述もありました。
他方で、マヤについても、これまでより文明が遡るのではないかと思わせるような発見も続いているようです。メソアメリカでは凄い勢いで発掘や発見が進んでいて目が離せません。




ラ・ベンタ遺跡公園には付属の動物園もあります。



ジャガーは美しい。



ラ・ベンタ遺跡公園はオルメカを知るためには是非訪れたい場所。
パレンケへの途中に立ち寄ることが多いようです。
季節によっては蚊が凄いらしいので虫よけ必須。


中米の遺跡に戻る




参考文献

黄金帝国の謎 インカ・アステカ・マヤ(文春文庫ビジュアル版 森本哲郎編)
沈黙の古代遺跡 マヤ・インカ文明の謎(講談社+α文庫 増田義郎監修)
図解古代マヤ文明(河出書房新社ふくろうの本 寺崎秀一郎著)
古代マヤ・アステカ不可思議大全(草思社 芝崎みゆき著)
メキシコ国立人類学博物館 日本語版(ボネーキ出版社 Felipe Solis著)

現地ガイドさんの説明に基づいてまとめています。