エル・ブルホ

トルヒーヨから北に車で1時間強
サトウキビ畑を抜け、海岸沿いの砂丘地帯に出ると3つのワカがあります。
ワカ・パルディーダ、ワカ・カオ・ビエホ、そしてワカ・プリエッタ。
この3つのワカを総称してエル・ブルホと呼びます。
2011年9月訪問

写真は最大の見どこであるワカ・カオ・ビエホ


エル・ブルホとはスペイン語で「魔術師」の意味。ここはモチェ時代(紀元前後〜後700年)に神官・シャーマンが祭祀を行った場で、その後も神聖な場所として祭祀が続けられてきました。今でも祭祀が行われることがあるそうです。キリスト教の立場からすれば、異教の神官・シャーマンは「魔術師」です。そこで、シャーマン達が集まるこの場がエル・ブルホと名付けられたわけです。


ワカ・パルディーダ



ワカ・パルディーダのパルディーダとは「分かれている」という意味。
文字通り、真ん中で2つに分かれています。
これは元々分かれていたわけではなく、スパイン統治時代に壊されてしまったもの。

 
ワカ・エルボに来る途中、サトウキビ畑が広がっていましたが、おそらくこのワカも壊して畑にしようとしたのでしょう。

モチェなどプレ・インカの神殿は日干し煉瓦を積み上げて建てられたため、時の経過により一見すると自然の丘にしか見えなくなってしまっています。

そのため重要性が理解されず、壊されてしまったワカが多数あっただろうと言われています。


壊されてしまったのは残念ですが、ワカの内部構造がよくわかります。

日干し煉瓦が、隙間なく、びっしりと積み上げられています。

それにしても、日干し煉瓦による人工の建造物と分かった時点で、その歴史的重要性に気が付かなかったんですかね・・・。

ほんと、スペイン人って・・・。



ワカ・カオ・ビエホ

エル・ブラホで最も見ごたえがあるのが、ワカ・カオ・ビエホ。
ここでは貴重な発掘が相次いでいます。

入ってすぐが大きな広場。ここは雨乞いの儀式をする場所です。乾燥地帯であるこの地では雨乞いは重要な儀式だったのでしょう。しかし、その儀式は凄惨なものでした。戦争捕虜を裸にし、首に縄をつけて引き回し、捕虜の体中に傷を付け、その血を杯に受け、それを王が飲んだのです。



 この雨乞いの儀式はモチェ文化(紀元前後〜後700年)で広く行われていたようです。トルヒーヨ郊外にあるモチェ文化最大の遺跡・月のワカでは更に巨大な広場が発掘されており、より保存状態の良い、壁画が発見されています。

壁画の一番下には裸で首に縄で結ばれ引き回される捕虜達、下から2番目には儀式の際のダンサーが描かれていました。

写真左下は引き回される捕虜。体が赤いのは全身を傷つけられ血を流しているからです。儀式の際、捕虜達にはコカインなどの麻薬を飲まされており、興奮状態にあったようです。捕虜達の男根が興奮状態にあることを示しており、ここ独特のリアルさです。

写真右下のダンサーの足首には本物の人間の足首の骨が埋められていました。ダンサーの上の段は保存状態が悪いですが、クモとコウモリが合体したような姿のデカピタドールという神ではないかと思われます。この神は犠牲者の首を持つ姿でよく描かれるそうです。

   



広場を出て、ワカの上に登ると、壁画の美しい部屋に出ます。2006年、ここからモチェでは珍しい女性のミイラが発掘されました。女性は身分の高い女神官だったと考えられており、セニョリータ・カオと呼ばれています。



セニョリータ・カオが見つかったのが写真中央です。彼女は20〜25歳くらいと 推定されています。彼女とともに首を斬られたか、首を絞められた12歳くらいの少女が埋められていた他、4体の殉死者らしき人物もこの部屋で発見されました。殉死者の中には高齢の女性も含まれていたとのこと。これまでモチェの祭祀は男性が行うものと考えられていましたが、この発見で女神官の集団があった可能性を投げかけることとなりました。

 写真はセニョリータ・カオの想像図と発見時の状態の説明図です。

彼女は様々な副葬品とともに布で何重にも巻かれていました。

総重量は100Kもあったとのことです。

両手には黄金の杖を持ち、ジャガーが刻まれた黄金の頭飾りを付けていました。

身長は145センチほど。両手と膝から下にはイカ墨で入れられたヘビの入れ墨。

彼女の頭の上には、赤ちゃんを抱いた女性のお腹を魔術師・シャーマンが触っている形の土器が置かれ、その中には薬草が入っていました。
このことから、セニョリータ・カオは出産で亡くなったのではないかと考えられています。

彼女のミイラと副葬品は遺跡に隣接する博物館で展示されています。

ちなみに、乾燥したこの地では、遺体を海につけて埋葬するとミイラになるとのこと。


それにしても、ここの壁画は綺麗です。
左下にはモチェの最高神・創造神であるアイ・アパエックが描かれています。
右下はマンタや海鳥・イグアナ?などを様式化したもののようです。
抽象画のようですね。
   


近寄ってアップで撮ってみました。

 アイ・アパエックは不思議な姿
鳥も描かれています。
 イグアナと水鳥。
イグアナが分かりやすい。



更にワカを登って行くと、幾つかの部屋があります。
壁画も数多く残っていました。
下は最高神アイ・アパエックの壁画(左)と、その復元図(右)。顔の周囲はヘビ。
アイ・アパエックの耳は8の形で描かれることが多いようです。
   



この壁画も美しい。
これらのレリーフは壁に絵を描いてから削って作るのだそうです。




こちらは犠牲者の首を持つデカピタドール。
クモの姿です。クモは最高神の1番弟子なのだとか。




ワカ・プリエッタは残念ながら見ることができませんでした。なんでも紀元前3000年から2000年にかけてのもので、エル・ブラホの中で一番古い神殿だそうです。カラル遺跡と同時代ですね。



ワカ・カオ・ビエホの上から見た景色
海のそばにワカ・パルディーダ。近くに博物館が見えます。
なんとも荒涼とした風景です。





この遺跡は全く情報がない状態で訪れました。
それだけに驚きました。
荒涼とした風景と美しい壁画。
そして、残酷だけれど切実であったのだろう儀式。
印象に残る遺跡でした。


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参考文献

古代アンデス 神殿から始まる文明(朝日新聞出版・大貫良夫/加藤泰建/関雄二 編)
沈黙の古代遺跡 マヤ・インカ文明の謎(講談社+α文庫・増田義郎監修・クォーク編集部編)
黄金王国モチェ発掘展(TBS)

参考文献が少なく、基本的に現地ガイドさんの説明を紹介しています。
今後、発掘調査が進めば、全く違う事実も出てくるかもしれません。