グアテマラ国立考古学民俗学博物館

グアテマラ・シティにある国立考古学民俗学博物館
マヤの出土品の充実度が素晴らしい。
遺跡好きだったら、是非訪れたい博物館です。

2012年5月訪問



博物館に入ると、いきなり巨大なレリーフとご対面。
エル・ペルー遺跡から最近発掘されたもののレプリカだそうです。

全身像
非常に彫りが細かい
 
 仮面を被った王の横顔
ネックレスや仮面の飾りも凄い


入口ホールには美しい石板も展示されていました。
マヤ文字が美しすぎる。ガラス越しなので光っちゃったのが残念ですが・・・。



並んで展示されていた石板。こちらも美しい。
どちらの石板も余り大きな物ではありません。



2つの石板に彫られていた人物像
   



一般展示室

入口ホールに何時までも留まっているわけにもいかないので先に進みます。


一般展示室に入ってすぐのところに小さなオルメカのジャガー人間像がありました。

ジャガー人間というのは腫れぼったい目に、動物のような口といったジャガーの特徴を持った人物像で、なぜか全て幼児の姿。

オルメカ文明はメソアメリカ文明の母体、母文明とも言われ、紀元前1200年ころから前400年ころに栄えました。

巨大な人頭像やベビーフェイスと呼ばれる不思議な表情の人物像、ジャガー信仰で有名で、このジャガー人間もオルメカ特有の出土品です。

なんとも言えない不気味さがオルメカの特徴。

元々、オルメカ文明はメキシコ湾岸地帯で栄えたものですが、その影響はグアテマラまで及んでいたんですね。

メソアメリカの母文明と言われたオルメカ文明ですが、マヤ文明の始期が遺跡の発掘によって、近時どんどんと遡っているので、マヤ文明との先後関係は、ちょっと微妙になってきています。


オルメカのものもありましたが、博物館の展示品のほとんどはマヤ文明のもの。



ここでおさらいしておくと、マヤ文明はメキシコ南部・ユカタンからグアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバトルにかけて栄えた文明です。
最盛期と言われる後250〜900年を古典期、その前後を先古典期(前1600?〜後250年)、後古典期(後900〜16世紀)と呼びますが、先古典期については近時遺跡の発掘で、どんどん遡っていて、既に述べたようにオルメカ文明との先後関係も論争となってきています。

博物館ではマヤの土器が多数展示されていました。
王の食事用だそうです。
   


食器も見事なんですが、こんな可愛いのもあります。
香炉や埋葬用の壺の蓋だったそうですが・・・
ジャガーなんでしょうけど、オルメカのジャガーと違って可愛すぎる。
   



マヤの人々の生活感あふれる人形も多数展示されていました。

大きな頭飾りは貴族階級でしょう。
人物にまぎれて蛙もいます。
 
 戦士でしょうか。
ジャガーと鷲は戦士のシンボル



ワシャクトゥンの大仮面


マヤ文明では先古典期の終わりごろから古典期の初めころにかけて、神殿を巨大な仮面で装飾するということが流行しました。ティカルの古い神殿やカラクムルの古い神殿からも大仮面の装飾は発見されています。この仮面があったワシャクトゥンはティカル近郊の遺跡で先古典期からの長い歴史を持っていました。


マヤの絵文書も展示されていました。
マヤの絵文書はキリスト教宣教師によって焚書され、ほとんど残っていません。
これはマドリード文書のレプリカだと思います。



こちらにはマヤの神々が描かれています。
中央下段はマヤの女神イシュ・チュル。月の女神で出産も司りました。




博物館中庭

中庭を取り巻くように多数の石碑が展示されています。



見事な祭壇



有名な遺跡からの出土品もあれば、初めて聞いた遺跡のものもありました。
マヤの都市の多様性を再認識です。

ウカナルの石碑と祭壇
 
 ティカルの石碑20


ピエドラス・ネグラスの石碑
 石碑36
石碑4
 

ピエドラス・ネグラスは古典期マヤで著名な都市のひとつ。
しかし、アクセスが悪く、遺跡を訪れるのは大変です。
訪れるのは困難ながら、歴史上著名な都市は他にもドス・ピラス、ナランホなどがあります。
そこで、この3都市については諸国の歴史として別にまとめてみました。
国立考古学民族学博物館 諸国の歴史


 タマリンディート
 マチャキュラ石碑2

タマリンディートというのはペテシュヴァトゥン地域の都市で後にドス・ピラスに支配されます。
マチャキュラという名前は初めて聞きましたが、なかなか綺麗な石碑です。
マチャキュラの石碑は他にもありました。
光っちゃったんで、ちょっと補正してます。

マチャキュラ石碑3
 
マチュキュラ石碑7
 



マヤとは違う文明の石碑もありました。
パロ・ベルデ
       



他にも、よく分からない謎なものも・・・・
 
 



一般展示室の他に、グアテマラを代表する2つの遺跡の部屋があります。

カミナルフユ室

カミナルフユはグアテマラシティにある遺跡です。
ここで見落とせないのが、たぶん、この2つ。

石碑11
 
マルカドール

カミナルフユの歴史は紀元前900年ころに遡ると言われており、その後紀元後600年ころまで栄えました。先古典期マヤから古典期マヤにかけての長い歴史のある都市です。石碑11はマヤの王を描いた最も古い石碑で先古典期(後200年ころ)のもの。
マルカドールはテオティワカンのゴール・マーカーを模した記念碑に似ていると言われ、テオティワカンの影響を示すものと言われています。カミナルフユの遺跡はテオティワカン様式のタルー・タブレロ様式が見られ、多くの都市が滅んだ先古典期の終わりを乗り切ったのもテオティワカンとの交易があったからだとされています。カミナルフユの遺跡は石ではなく日干し煉瓦でできているため、破壊が進んでしまったのが残念。今では遺跡の大部分が住宅街の下に埋もれています。

カミナルフユの遺跡については独立してまとめています。



ティカル室

マヤを代表する遺跡ティカル
グアテマラが誇る大遺跡です。
ティカルは遺跡歴史を別にまとめています。



ティカルはグアテマラ中部のペテン地方のジャングルにある巨大遺跡です。ティカル室に入ると、巨大な遺跡の復元模型がありますが、この巨大な模型でも中心部しか復元できていません。実際の遺跡は更に巨大です。
ティカルはマヤ先古典期からの歴史を誇り、テオティワカンとの関係も色々と噂される古典期の超大国です。6世紀中ごろにカラクムルに敗北し、その後長い停滞期を迎えますが、7世紀末にカラクムルを破り、再びマヤ屈指の超大国としての地位を固めます。ティカルとカラクムルという2大超大国の攻防は多くの国々に影響を与えました。

博物館で絶対に見逃せない物の一つが、この投槍器フクロウのマルカドール
テオティワカン特有の球技場のゴール・マーカーを模した記念碑です。

 投槍器フクロウが刻まれた正面
 背面

ティカルから発見されたこのマルカドールは論争を引き起こしました。
投槍器フクロウはテオティワカンの王で、息子をティカル王にしたというのです。
378年の政変と言われ、今、マヤ学で熱い議論がなされています。
378年の政変について、詳しくはこちら


次に見事なのがティカル4号神殿のリンテル
27代王イキン・チャン・カウィールの戦勝記念碑です。
ガラスで保護されてるので、光っちゃったのが残念ですが・・・
イキンの父が7世紀末にカラクムルに勝利した26代ハサウ・チャン・カウィールです。



父が宿敵カラクムルを破った後、イキン・チャン・カウィールは次々と勝利を重ねていきます。
このリンテルはカラクムルの従属国エル・ペルーを破った戦勝記念。

 

 

このリンテルはどうやらレプリカのようです。
しかし、迫力はかなりのもの。イキン王の顔も力強いし、マヤ文字も凄い綺麗。


 これは別のリンテル
オリジナルだそうで余り状態は良くありません。
リンテルの近くに展示されていた壁画
マヤ人の横顔が残っています。
 



特別室(翡翠室)

投槍器フクロウのマルカドールのすぐ近くに特別室があります。
ここはグアテマラの国宝とも言えるような貴重な物が展示されています。
翡翠の見事さから翡翠室とも呼ばれます。

ティカル出土の翡翠の仮面
凄い迫力
 
 ティカル出土の翡翠の容器
繊細な細工が見事



この特別室にはティカル26代王ハサウ・チャン・カウィールの墓も復元されています。

前記したようにハサウはカラクムルを破った王で、ハサウの勝利によりティカルは一気に復活します(ティカルとカラクムルの抗争について、詳しくはこちら)。

この墓、骨はレプリカですが、翡翠は全て本物。

マヤでは翡翠は最も価値のあるものとして尊ばれましたが、ハサウはなんと3.9キロもの重さがある翡翠の首飾りを付けて眠っています。

首飾りだけでなく腕輪や足元の飾りも翡翠のようです。ティカルの豊かさを物語ります。

この豪華な墓はティカルの1号神殿から発見されました。

27代イキン・チャン・カウィール王が父を葬ったのが1号神殿と考えられています。

26代ハサウ王と27代イキン王がティカルの黄金期を築いたのは間違いありません。


他にも見事な工芸品が展示されていました。

翡翠
 
 翡翠
 貝細工の水鳥




大皿。筆使いが素敵。
 
 カカオ豆の神


円筒形土器も見ごたえがありました。

ジャガーの装い
シャーマンでしょうか
 
 動きのある図柄です
踊りなのか儀式なのか


座る神々・・・でしょうか。
   


実に見どころの多い博物館でした。
名前も知らない遺跡が数多くあったので
もう少し勉強して、また行きたい。


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参考文献

古代マヤ王歴代誌(創元社 中村誠一監修)
ナショナルジオグラフィック日本版・2007年8月号
マヤ文明(岩波新書 青山和夫著)
古代マヤ・アステカ不可思議大全(草思社 芝崎みゆき)

基本的には現地ガイドさんの説明を元にまとめています。